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15
かなり勇気が必要だったけれど、僕は精一杯の何でもない顔で部屋に戻った。
DVDは既に終わっていて、ぼんやりしたテレビの光だけが薄闇を照らしている。神野はベッドの上で手足を投げ出して突っ伏していた。
「ほら水。大丈夫か?」
声をかけてみるけれど返事がない。
「神野」と肩を叩くと、わずかに顔をこちらに向けてうっすらと目を開けた。
「…気持ち悪ぃ…」
「弱いのにあんなに飲むからだよ」
コップを渡してやる。神野はのろのろと顔だけ持ち上げて飲み干すと、力尽きたみたいにまたベッドに顔を落としてしまった。
その様子に、僕は少しだけほっとする。やっぱり、さっきのは酔ってタチの悪い絡み方をしただけなんだ…。
「しょうがないなぁ」
持ったままのコップを取ろうとした手が神野の指に触れた瞬間、ふいに手首を掴まれた。はっとして神野を見たけれど、眠ったように目を閉じていた。
「…ハル」
「じ、神野、寝ぼけてる?」
「…そばに、いてくれよ…」
すがるように絞り出されたその声に、胸がずきりと揺れた。大きな手にぎゅっと力がこもる。
神野の気持ちが痛いほど伝わってくるようで、今度こそふりほどけなかった。
そういうことだったのか…?
僕を鈍感だって言ったり、彼女とすぐ別れたのも。あの時の態度も、言葉も全部。くらくらと目の前が揺れる。
ずっと友達でいたいって思ってた。たった1人、僕が本当の僕でいられる相手。それが神野で良かったって、心の底から思ってたのに。
小さな寝息を立て始めた神野を見ていたら、涙が出そうになった。絶対に壊したくない宝物みたいな思い出まで、失くなってしまいそうで。
いつのまにか、夜は明けていた。
僕は結局全然寝られなくて、ベッドの横に座り込んだまま朝を迎えた。
それとなく昨日の夜の話をしたけど、神野は「覚えてない」の一点張りだった。二日酔いで唸ってるあいつに飲み物と朝ごはんを買ってきて少し話した後、僕は急なバイトが入ったって下手な嘘をついて、アパートを後にした。
混乱してて、何も考える余裕なんて無かった。神野の気持ちも、僕自身のことも。
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