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「お前、それ好きなの?」 はじめて神野が声をかけてきたのは1学期も終わる頃だったように思う。 休み時間、ふらりと席を立ちかけた神野が僕の机の上の筆箱に目を止めた。 あまりにも突然だったから、思わず固まってしまったのを良く覚えてる。 「そのステッカー、“ダストマンズ”だろ」 「えーと…、うん」  ダストマンズは当時メジャーデビューしたばかりのハードコアバンドで、世間的にはかなりマイナーだ。 たまたまCDショップで試聴して、気に入って買ったアルバムに付いていたステッカー。なんとなく筆箱に貼っておいたのを、目ざとく見つけたらしい。 「まだはまったばっかりだから詳しくないけど。神野、知ってる?」 「知ってるっていうか、すげー好き」  どかっと席に戻ると、何を思ったか神野は自分のくたびれた通学バッグをあさり始める。 「持ってないやつあったら貸すけど」  次の瞬間には僕の机の上にCDがずらりと並べられた。 ――え、いつも持ち歩いてるのか…? 正直言ってちょっと引いたけど、せっかくだからお言葉に甘えることにした。 「じゃあ、借りようかな」 「まじで?」  僕の言葉に、神野の茶色の瞳がちかりと光る。 「…あー、何て言うんだっけ、お前。『すだ』?」 「須和だよ。須和春臣(すわはるおみ)」  席が前後なのに名前も覚えてないことに呆れたけれど、ノートのはしっこに名前を書いてやる。 神野は何がおかしいのか鼻で笑った。 …失礼な奴。 「すげー角ばった名前だな。政治家みてえ」 「…名前は自分で選べないんだから、しょうがないだろ」 「ははっ! そりゃそうだ」 神野の笑顔をまともに見たのは、その時が初めてだった。  近寄りがたい奴だと思っていたけど、案外優しい顔して笑うんだって、感心したんだ。
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