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今から十五年も前のことです。当時の私は、既に人形の範疇を超えた存在に成りかけていたようで、私を受け入れた家には不思議な現象が起こるようになっていました。
食堂の皿が宙を舞っただとか、奇怪な音が枕元で聞こえるだとか、自分で意識したつもりなどありませんでしたが、いつしか私は気味の悪い人形として扱われるようになりました。最後の持ち主に家から遠く離れた場所へ捨てられてしまったことも、また必然だったと言えるでしょう。
その処遇に対して不満を抱かない訳ではありませんでした。これまでの半生、私はどの家庭においても大切に大切に、あたかも親子のように扱われてきたのですから。
しかし、これは同時にチャンスであるとも思いました。気味悪がられるまでにこの世に干渉出来るようになったという事は、それだけ私の魂が確かな形を持つようになったということ。これで肉の器でも獲得出来れば、自分はいよいよ人生について知る機会を得られるかもしれない。そう思うと胸が高鳴ったものです。
それでも、流石に捨てられてしまってはどうしようかと、私は内心困ってしまいました。このまま焼却炉にでも放り込まれれば、陶器の器どころか魂まで消失しかねませんでしたから。
しかし、そんな私の不安を払拭するような出会いがありました。一人の少女が私を拾ったのです。市松人形を思わせるほど可愛らしい、年端もいかない少女でした。
彼女は嬉々として私を拾い上げると、そのまま自分の家へと帰りました。私はしめたと思いました。まさかここまで簡単に人間に取り入ることが出来るとは思っても見なかったのですから。
私を拾ったのが子供だったというのも大きな要素でした。大人なら霊気を放つ人形など面妖と思って終わりですが、素直な子供なら私のことも容易に受け入れてくれる可能性が高かったからです。
上手く振る舞えば、この少女を私が人間として生きる足掛かりに出来るかもしれない。やや腹黒いことを企みながら、私は心の底でクスクスと笑いました。
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