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動機
突然の出来事に園原は困惑していた。
写真を撮られた!
何故こんな時間に生徒がいるのか!
どう言い訳をしようか!
何故!
どうして!
すると男子生徒――時雨が話しはじめた。
「どうもこんばんは、園原先生。僕達、探偵部は『兎ぐちゃぐちゃ事件』の犯人を探してるんです。その犯人に心当たりはありませんか?」
時雨は懐中電灯で辺りを照らしている。そのため、表情はよく分からないが、ただその声色はやわらかい。普段の話し方とまるで変わらない。それが余計不気味だった。
「せんぱいはどうしてそんな分かりきったことを聞くんですかー。犯人なら目の前にいるじゃないですかー。」
次に口を開いたのは女子生徒のきずなである。こちらも普段と変わらない間延びした口調に無機質な声色。
「き、君たちはどうしてこんな時間に学校にいるの?」
園原は震えた声で二人に問いかけた。
「先生こそ。」
「わ、私は残業してただけよ!兎の様子が気になったから見に来ただけなの!」
「まーまー、そんな言い訳したところで証拠写真撮れてるんですよー。」
園原は必死に言い訳を言うが、きずなの無慈悲な言葉に遮られる。
すると園原が突然、俯いた。ゆっくりとした足取りで扉の前に立ち、扉を開けた。そして兎小屋の外へ出ると顔を上げた。
「どうして邪魔するのよ…!」
その目には狂気が宿っており、カッターを強く握りしめている。
そして、カッターを持っている方の腕を振り上げ、一番近くにいたきずなに目掛けて振り下ろす。
しかし、きずなはそんな攻撃をあっさりと躱してしまった。
「兎殺すだけじゃなくて、人間にも手ぇ出すのは、さすがにやばいですよー。」
きずながそう言うも、園原は全く聞いていない。
「どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、邪魔するのよ!!!!!!」
そう叫び、園原は何回も何回もきずな目掛けてカッターを振り下ろすもきずなはあっさりと躱す。
園原は気づかなかった。
きずなを執拗に攻撃していたため、彼のことを忘れていたのだ。
時雨は園原の背後に気づかれぬようにまわり、ズボンのポケットからスタンガンを取り出した。
そして、園原の背中にそれを押し当てた。
「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!!!」
辺りに園原の絶叫が響く。ドサッと音がして園原が倒れたことが分かる。
「園原先生、喋れますよね?僕達、一応これ部活動だから報告書作らなきゃいけないんです。だから、動機とか教えてくれませんか?」
時雨が微笑みながら問うと、園原はしばらく沈黙していたが、口を開いた。
「彼氏に振られたの。六年間も付き合ってたのに。結婚だって考えてた。もっと器用な人が良いって。私不器用だから。でも兎人くんは私のこと褒めてくれたの。いつも頑張ってるって。感謝してるって。兎人くんは私にネックレスもくれたの。飼育委員の人全員に配っていたけど。だけど私のはデザインがちょっと特別だったわ!私は彼に愛されているの!だけどここで落としてしまったの。きっと忌々しい兎が飲み込んだんだわ!だから動物は嫌いなの。私がネックレスを付けてないと兎人くんは悲しむわ。だから切り開いたの!パーツの部分は見つかったわ!だけどチェーンの部分が無かったの!だからまた兎の腹を開かないと!」
独善的で狂気にみちた言葉を流暢に紡ぎ続ける園原。それを見た、きずなは口を開いた。
「園原先生ってようは、秦山せんぱいのこと好きなんですよねー。」
「そうよ!私たちは愛しあってるの!何か文句ある!」
「秦山せんぱいって大の動物好きなんですよー。今回の事件、凄く悲しんでましたー。園原先生、好きって言うわりには秦山せんぱいのことなんも知りませんねー。」
きずなの言葉に園原はハッとしたような顔になった。そして言い訳のように言葉を発する。
「違う、違う、これは兎人くんのためで、嘘、嘘よ、そんなの、彼は、私のことを一番愛してる、」
「『私のことを一番愛してる』なんて鈴里せんぱいとか、笹原せんぱいみたいなこと言いますねー。その二人のほうがまだ秦山せんぱいのこと、分かってましたよー。」
園原に追い討ちをかけるように、きずなはそう言う。
今まで黙っていた時雨が口を開いた。
「チェーン、実は僕が持ってるんです。今日の調査で見つけたんです。ここ、置いときますね。安心してください。このことは理事長以外には言いませんよ。警察にも兎人くんにもね。しばらくしたら動けるようになると思うんで。それじゃあ、きずなちゃん帰るよ。」
「はーい。」
そう言い、去っていく時雨ときずなを園原は這いつくばりながら無言で見つめていた。
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