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手元のアイスはすっかり棒だけになっていた。棒には何も書かれていない。ハズレだった。
良かった。当たりだったらまた来なければ勿体ない、そういう気分になりそうで。
ゴミ箱に放って立ち上がる。通学バックを肩にかけて、自転車のスタンドを上げた。
「また来るのかい?」
「……いや、しばらくは来れなくなっちゃうかな」
「そうかい……」
ややしょげた顔つきになるおばちゃんに、僕は苦笑する。老人に言うのは失礼だが、なんだか子供っぽさのある動作だったから。
サドルに腰掛けて、僕はほんの少しだけ口端を上げた。
「まあ、……すぐ会えると思うよ」
軽く手を上げる。おばちゃんも僕につられて手を振っていた。僕はペダルを力強く踏み込む。
最後に見たおばちゃんは、満面の笑みだった。
またね、と唇だけで呟いた。音にはならないそのしばしの別れの言葉は、空気に溶けて消えていった。
熱気を掻き分けながら、住宅街を進む。すれ違っていく人が、額に滲ませた汗をタオルで拭っていた。
アスファルトに照る光が眩しい。僕は目を細める。
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