死体が埋まってたってさ。

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 僕には読める。所々掠れて薄くなって、消えかかっているその文字が。茶色くなってしまった血痕の跡に塗りつぶされているその文字が。  河野 昭夫――僕の名前だ。  しゃがんで白骨死体を眺める。自分をこうやって見たのは初めてだった。いつも土の下に埋まっていたから。  今日みたいな梅雨晴れの夜だった。彼女を家まで送り届けた後。今と全く違う、田んぼの間の砂利道を自転車で帰っている最中の事だった。  今でこそアスファルトで舗装され、街灯が並んでいる。しかし、その当時は畦道で明かりはどこにもない。  一瞬だった。  僕よりも大柄な人影が、突然田んぼの方から現れた。自転車が止まる前。その大柄な人影が振りかぶった〝何か〟を辛うじて目視出来た程だった。  頭を襲った衝撃で、自転車から放り出される。畦道から田んぼへと転がり落ちた。身体中が軋んだ。だけど、その痛みはすぐに感じなくなった。  僕を殺した犯人が、せっせと僕を埋めるのを見ていた。警察に捕まる所だって。  それと同時に、彼女の事だって気にしていた。  彼女と最後に会った梅雨晴れの日から、僕の時間はずっと止まっていた。  でも、もうそれもお終いだ。 「彼女が〝こっち側〟に来てくれるからね」  ふふっと、思わず喜色を含んだ声が漏れる。  頭蓋骨がへこんだ白骨死体は、歪な笑みを浮かべているようだった。
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