序章:死んでしまう前に『一回死んだつもり』になって考えてみよう

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 自殺願望がある人間以外、多くの人々にとって大抵の出来事は『死ぬよりはマシ』な事だろう。  だが、自殺願望がある人間にとっては、自分の恐れる事に立ち向かうよりも、『死んだ方がマシ』だったりする。  一般的な社会で生きている大多数の人間にとって、『死ぬくらいなら〇〇する』のが普通なのだろうが、死のハードルが低くなっている状態の人間にとっては、『〇〇するくらいなら死ぬ』条件が、他人には予想もつかないほど簡単なものな事もあるのだ。  例えば今(2019年3月31日現在)の私にとっては、メールのチェックが怖い。  SNSや小説投稿サイト等、人と関わる可能性があるサイトへの、ログインが怖い。  おかげで、作品は発表したくても、出来ないという状況が続いている。  さすがに何年もこの状態では、自分自身の人生の目的からどんどん離れてしまうので、まずいと思ってはいる。  だが、その気持ちが自分でコントロール出来ないから困っているのだ。  この状態を動かすためにも、心のリハビリという形で、このエッセイを書く事にしたのだ。  上手くすれば、私と似たような心の痛みや迷いを抱えている人に、そんな状態から抜け出すための、何かしらのヒントとして受け取ってもらえるかもしれない。  私にとっての恐怖の理由は、これから自分の体験などを振り返る形で少しずつ語っていこうと思うが、これも他人から見ればきっと、ほとんどの事が何でもないような、小さな理由の積み重ねなのだろう。  だからこそ、自分では気が付けないのだ。  子供の頃に受けた心の傷や恥、敗北感や無力感、罪悪感は、他人や家族に話す事もほとんどなく、自らも普段は思い出さないよう、心の奥に封印している事が多いのではないだろうか?  そんな風に忘れているために、自分でも理由の解らない不安感や、また失敗するかもという不の予想が、恐怖になる。  その正体が一つ一つ暴かれることによって、初めて乗り越えられる事がある。 「これが理由だ」と、認識するだけで消えてゆく痛みもあるし、誰かに話せなくても、自分を客観的に見るだけで、和らぐ過去もあるのだ。  これから一緒に、あなたの場合はどうだったか、思い出してみてほしい。  もちろん無理に記憶をこじ開ける事はない。  あなたの痛みはあなたの物で、いつ向き合うかも、一生気が付かない方が幸せに生きられるというのなら、それも正しい道だからだ。  そしてもし、あなたの人生が今とても幸せで、なんの心配もなく、心に余裕がある状態なのだとしたら。  できれば、「ああ、自分は恵まれていて幸せだ」と思うだけではなく、今傷ついている誰かのために行動してほしい。  その人は普段は傷を見せないよう、とても優しく大人しい性格をしているかもしれないし、あらゆる恐怖から、とても攻撃的に、常に自分を守ろうとしているかもしれない。  もしそんな人のために、行動するのは無理だというのなら、せめて温かい目で、そういう状態である人も見守ってほしい。  育った環境や、周囲の人間関係によって、自分もそうなる可能性があるのだと、理解だけでもしていただきたい。  それすらも無理ならば、最低限、他者を貶めたり、傷つけたりする生き方をしないでくれるだけでありがたい。  直接的な関わりでなくても、出逢った人やあらゆる生命に対して、そう、動物や植物にでも、なるべく穏やかに、寛容に、優しく対応するだけで、世界は少しづつ良い方向に進むと思うのだ。  と、いうより、世界はそうして少しずつの時間をかけてしか、最善の道へは進めない。  今までどれだけの人間が、お互いの『正義』や『価値』や『権利』のために争い、殺し合ってきたのだろう。  それこそ、『正義』のために死んだり、殺されたり、自分や国の財産、国益のため、あらゆる『価値』や『権利』のために、数えきれない程の命が無駄に奪われてきた。  それでも世界は変わらなかった。  一定期間の『平和』と、再びの争い、『戦争』の繰り返しの歴史だ。  みんながみんな、一気に、今すぐ、自分に都合よく『世界を変えたい』と願い、他者を犠牲にしようとするから、変わらないのだ。  どんなに頑張っても、人ひとりの命は百年程度の長さなのだ。  今から次の百年で、この世界に完全な平和が訪れると、想像できるだろうか?  自分が生きている間に世界が完全に平和になる。それが無理なのだとしたら、次に生きる世代の人たちに、出来るだけの平和と、寛容さや優しさを繋いでいってもらうしかないのだ。  そのためには、心の優しい人々に、繊細に相手や自分の事を思いやり、大事にできる人こそ、長く生きていって欲しいのだ。  そう、他者を傷つけるよりは、自らの死を選ぼうとする様な人に。  自分の欲のままに他者を踏みつけ、弱者から搾取する事にも躊躇しない、不正にまみれた人間ほど無神経に図太く生きているのがこの世界の現実の一つの側面ではあるのだが、このままそんな人間ばかりが生き残っていったところで、あらゆる生物にとって、地獄のような未来が待ち受けているだけのように思える。  だからこそ、今は心が弱くとも優しい人々にとって、『死よりも怖い』、その苦手なハードルを越えられるよう、ハードルがハードルでなくなるよう、少しづつ、意識を変える必要があると思うのだ。 「強くなれ」と言われて、いきなり強くなれる人間はいないから。  それではまず、もし今、あなたが本当に死んでしまったとして、再び産まれ直してここにいるという場合を想像してみよう。
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