さよなら

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さよなら

_お土産いっぱい買ってくるわね、代利子(よりこ) 春休み、これが代利子が聞いた母の最期の言葉だった。 商店街の福引きで「指宿(いぶすき)温泉ツアーペアチケット」を当てた代利子は両親に日頃の感謝としてそれを贈った。2泊3日、夫婦水入らずで楽しんでくれたら、代利子はそう願った。 そして出発の日、ボストンバッグを持って両親は楽しそうに玄関を出て、代利子はそれを笑顔で見送った。 それからたった数時間後、羽田ー鹿児島の飛行機墜落のニュースが飛び込んだ。数日後に身元確認を終えた警察が代利子の元にやってきた。数日も帰らない、代利子は覚悟をしていたからなのか、涙を流すことはなかった。 両親以外に親類がいない代利子、通夜と告別式は父の友人、両親の勤め先の社長や同僚が手配をし執り行われた。 火葬され骨になった両親を小さな骨壷に収めながら代利子は「ああ、これから独りだ」と心の中で呟いた。
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