さよなら

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4月になり、高校1年生で新生活を迎えた代利子は物理的には不自由なく普通の高校生活を送っていた。 葬儀場から四十九日までレンタルしている仏壇には両親が笑顔で写る遺影と母が好きだったカスミソウとヒヤシンスを供えて眠らせている。 朝の支度を終え、学校に行く前に代利子は必ず手を合わせて「行ってきます」と伝える。普通の生活に戻ってたった2週間だがそれが習慣になっていた。 この日は春らしく雲ひとつない快晴だった。 「うわー、いい天気……」 父に合格祝いで買ってもらった通学用のリュックを背負って、母と一緒に選んだニューバランスのスニーカーを履いて、少しだけ空を仰いで歩く。 (お父さんとお母さんの葬式の日もこんな天気だったな) 快晴のたびに代利子は憂鬱になる。 真っ青な空はまるで天国を描いたように見えて、両親はこの空に連れていかれたのかもしれない、そんなことはあり得ないのにそう思ってしまう。 それから代利子は同じ制服を着た人が詰め込まれた満員電車に揺られ、4駅先で一斉に降車する。ICの定期券をタッチして改札を抜け、そろそろ慣れたみちを歩く。 知った顔を見かければ適当に笑って挨拶を交わす。 いつも通り、地に足をつけている、と心のどこかで言い聞かせることもあった。
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