さよなら

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(は? 私に、家族? なんで……? だって、お父さんもお母さんも親類はいないって、おじいちゃんおばあちゃんもいないって) 驚いて声も出ない代利子を置いていくように大人は話を進めていく。 「ご親戚の方も本吉さんのことを探していらっしゃったので、今日は代理で役場の方が…」 女性職員が優しそうに、しかし淡々と事務的に説明して、彼女の隣に座る眼鏡の青年を指した。すると青年は「どうも」と頭を下げて、スーツの内ポケットから名刺を取り出した。 「初めまして。私は宮崎県平坂町(ひらさかまち)の町役場から来ました六天(むてん) 基樹(もとき)と申します」  代利子は差し出された名刺を恐る恐る受け取り、印字を見ながら目の前の青年の肩書きをよく確認する。 ___平坂町町役場 観光課  六天 基樹 (福祉課とかじゃなくて、観光課? 全く関係ない部署じゃん…)  代利子のもっともな疑問は基樹も察したようでバツが悪そうに代利子から目をそらすと、足元に置いてたビジネスバッグからタブレットPCと資料が入ったファイルを取り出して代利子と基樹の間にあるローテーブルの上に出した。 「東京の方じゃ聞いたこともない地名ですよね、平坂なんて」  基樹は「えへへ」と自嘲しながらファイルからチラシを出すと代利子、教頭、付き添っている田中にも渡す。
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