彼が求める『ひんやり』は

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 あ、あれ。一度までも二度までも空耳が。私、聴力検査受けた方がいいかな。 「空耳じゃないってば」 「わっ!!」  心の中で呟いていたつもりだったのに、無意識に言葉として出ていたらしい。 「みみりん、少しは俺のこと意識してくれた?」  もう一方の手もギュッと握られ、ポーッと蒸気機関車のごとく、一気に頭から湯気が出る。 「い、意識……めちゃめちゃしてます」 「ハハッ、作戦成功♪」  ご機嫌で笑顔を浮かべられ、私の心臓がドキューンと宇宙旅行に旅立ちそうなぐらい飛び上がる。  作戦……だったのか、そうかぁ。  敵の手中に嵌まるとは、修行がまだまだ足りぬ。  けれど、悔しい気持ちにはならなかった。それどころか、松井くんの笑顔につられて頰が緩んでしまう。下から手で支えてないと落っこちちゃうんじゃないかって、心配するぐらいに。
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