彼が求める『ひんやり』は

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 松井くんが、握っていた手を離した。 「今度は、みみりんから手を握ってよ」 「グェッ、そ、それは……」  テンパりすぎて、人間らしからぬ声が出てしまった。これも、努力と練習で乗り越えられるのだろうか。 「で、では失礼して……」  ゴクリと生唾を飲み込み、小指で小指に触れる。 「プッ……なにこれ」 「手を握るための、練習……です」 「練習、なんだ。まぁいいや、みみりんのペースに合わせてあげる。今まで辛抱強く待ってたわけだし」 「辛抱強く、ですか?」  『辛抱』だなんて、松井くんにはもっとも似合わない言葉だ。 「好きな女の子の手を平然と握るフリなんて、辛抱強くないとできないでしょー」  サラッと言われて顔が真っ赤になる。  そ、そうだったんだ!! 私だけが動揺してたわけじゃなかったんだ。  って。えぇっ、す、好きって今言った!? えぇっ、そういうことなの!?  松井くんが指を絡ませ、私の手を包み込んだ。心臓がドクドクと高鳴り、手も胸も、私の全てがあますことなく熱くなってくる。  もう私の手は『ひんやり』じゃなくなったけど、そんな私のことを松井くんは受け止めてくれると知っているからーーその温もりが、嬉しかった。 <完>
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