彼が求める『ひんやり』は

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 正直、松井くんは私の苦手なタイプだ。真面目で型にはまった生活が好きな私は、彼のような人間とは出来れば関わらずに平和に過ごしたい。そう思うのに、気づけばクラス委員長という責任感とお節介な性格が災いし、彼のだらしない服装や生活態度につい口を挟んでしまう。  私の説教は、いつも軽くかわされる。そして、いつのまにか親しげに「みみりん」とまで呼んでくるようになった。16年間蒼井美々として生きてきたが、誰一人として私のことを「みみりん」と呼ぶ友人はいなかった。しかも、松井くんはただのクラスメートにすぎないのに、意味が分からない。  アクシデントにより触れた手は、すぐに離れると思った。「ごめん」とひとこと謝り、何事もなかったかのように日常生活へと戻る。それがクラスのマナーであり、秩序だ。  けれど松井くんは違った。離れるどころか、今度は私の手を本格的に握ってきたのだ。思わずギョッとし、座った状態で椅子ごとガタガタッと後退りした。 「まっ、松井くんっっ!! 何してるんですか!?  じょ、女性の手をいきなり握るなんて!! い、いやらしい……」 「えぇー。だって、みみりんの手って冷たくて気持ちーんだもん。ねぇねぇ、なんでこんなにひんやりしてるの?」  松井くんは抗議する私のことなんて、まったく気にせず、いつものマイペースっぷりを発揮していた。
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