39人が本棚に入れています
本棚に追加
「ひ、冷え性……なので」
そう答えながら、意識しているのは自分だけだったと思うと、さっき松井くんのことを『いやらしい』だなんて言った自分の方が、よほど自意識過剰だったと恥ずかしくなってきた。
「ぁ……あの……もう、いいですか」
私の手は、いまだ松井くんに握られたままだった。もうすっかり冷気は松井くんの手に吸い取られ、右手だけが温かくなっている。
「うん。あんがとねー」
松井くんはニコッと笑うと、何事もなかったかのように去っていった。呆気にとられながら逞しい背中を見送っていた私を、松井くんが振り返った。
「また、よろしく♪」
ハッとすると本を手に取って開き、視線を落とした。さっきの続きを読み始めようとするのに……本の内容が、一行も頭に入ってこなかった。
最初のコメントを投稿しよう!