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今日も私は、『人間カイロ』ならぬ『人間ヒヤロン』となり、松井くんに涼をお届けしている。
松井くんは暑さを感じるたびに、ひとときの『ひんやり』を求めて、私の手を求める。その触り方には、いやらしさなど微塵もない。ただ純粋な冷えへの追求のみがあった。
どれだけ他の男子にからかわれても、女子たちに好奇の目で見られても、松井くんは動じない。私は居心地の悪さは感じていたものの、松井くんに涼を届けるという目的に従事することに徹し、いつしかそこに喜びすら抱くようになっていた。
そこには、松井くんに対する気持ちの変化が関係していた。
今までは、私が注意をする側、松井くんが注意される側という立ち位置にあり、それが崩れることはなかった。
けれど、松井くんが私の手を取って涼をとっている間、無言でいるのもなんなので、話をしているうちに、松井くんのいろいろな面を知っていった。
おじいちゃんが屋台でたこ焼きを売っていて、夏になると松井くんもおじいちゃんを手伝うために忙しくなることや、深夜までバイトをやっていて朝が起きられないことや、実は本を読むのが好きで、私の今読んでる本も読んだことがあって、好きな傾向が似てたりとか。
これまで私の中にあった『だらしなくて無気力でマイペース』というネガティブなイメージしかなかった松井くんに、どんどんポジティブなイメージが加わっていった。
「ねぇねぇ、今度勉強教えてよ」
そんな松井くんの頼みで、図書室で一緒に勉強してみると、松井くんは頭の回転が早くて、物覚えがいいことが分かった。学年一位の私すら、脅威を感じるほどだ。
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