彼が求める『ひんやり』は

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 あ、松井くんだ!!  廊下の向かいから歩いている松井くんを発見し、慌てて来た道を引き返し、階段を駆け上がる。  修行の甲斐なく、松井くんに手を握られそうになったり、手を握られるのだと思うだけで手が熱くなって手汗が出てしまうようになった私は、松井くんから逃げ回るようになっていた。  ダメだ。これじゃ、『人間ヒヤロン』になれない。  私は、ヒヤロンでないと松井くんにとって価値がないのに。  自分の手を見つめ、溜息を吐く。  その瞬間、ぬぼっと大きな影に覆われた。 「ねー、みみりん。なんで俺のことシカトすんの?」  ギャーッ、出たーっっ!!  白目になってアワアワと逃げ出そうとすると、子供を掴む母ライオンのように松井くんに襟首を後ろから掴まれてしまった。 「みみりーん、暑いんだけどー」  松井くんに迫られ、一気に体の中心から湯気が出そうな勢いで熱くなる。  ど、どうしよう。もう手汗が出て来たー!!
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