彼が求める『ひんやり』は

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 そう、私は今までどんなことも努力と練習で乗り越えて来たんだ。今回だって、乗り越えてみせる。  そんな固い誓いを胸に机の下に手を入れ、ヒヤロンを直に触っていた。  つ、冷たっっ!! でも、耐えるのよ……  本家ヒヤロンの力を借りて一体となり、私は再び『人間ヒヤロン』の力を手に入れるんだから。  そう、私はヒヤロン。ただ冷たいだけの固形物。心なんてない。無になれ、無になれ、無になるんだ…… 「みみりん、なんか念仏唱えてる?」 「ヒッ、松井くん!! よ、ようこそ」 「大丈夫?」  人のことなんてまったく気にしないマイペースな松井くんにまで気遣われるなんて、なんたる不覚。ダメだ、気を落ち着けなくては。 「松井くん、今日は私、ちゃんと人間ヒヤロンになるから!」 「えっ、なんの話?」  右手を差し出した私に、松井くんは怪訝そうな表情を浮かべながらも私の手を握った。 「うわっ、冷たっ!!」  松井くんが途端に手を離した。  あ、あれ? やりすぎた?
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