彼が求める『ひんやり』は

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「みみりんの手、氷みたいに冷たいよ! なんかの病気なんじゃない!?」 「ぇ……あ、それは……」  まさか、松井くんに手を握って欲しくて直前までヒヤロンを触っていたなんて、言えない。  グイと手を引き上げられ、松井くんが私を立たせた。 「えっ、松井くん!?」  松井くんは無言で私を連れて教室を出て、廊下を歩いていく。教室で手を握られることはあるけれど、廊下で手を繋ぐ……というより、市中引き回しの刑にあったことはない。  か、堪忍くださいましぃぃ。私が悪ぅございましたぁぁぁ、お代官さまぁぁぁっっ……!!  廊下で私たちを見つめる生徒たちを、通りに群がる町人たちの不安そうな顔と重ねて、そんな想像をしつつ、連れて行かれたのは保健室だった。しかも、保健の先生は不在だった。  ここで、どんな取り調べが待っているのか。カラカラに乾いた喉からは唾が出てこず、無理やり喉を上下させた。  観念、するしかない。 「松井くん……」  肩を落とし、雛鳥のように震えながら大鷲に命乞いをする。  どうか、どうか命だけはご勘弁を。
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