シー・ラブズ・ユー? ⒅

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シー・ラブズ・ユー? ⒅

 さて、先回りして駐車場の方で待つかな。  そう思い、広場を離れかけた時だった。「どうしてもダメ?ユキヤ」という声が背後で聞こえた。振り返ると、ステージ袖でまるでとおせんぼをするようにユキヤの前にたちはだかる少女の姿があった。彩音だった。 「今日は暇がない。そのうち連絡するよ」  ユキヤはぶっきらぼうに言い、彩音を押し退けるようにしてその場を離れた。  消沈する彩音に、俺は近づいた。はっとして顔を上げた彩音は一瞬、誰だろうというように小首を傾げた。やがて、俺の正体に思い当たったのか厳しい顔つきになった。 「こんにちは。どうやら無事に帰宅したみたいだね」  彩音は戸惑ったように目線を泳がせると、無言でうなずいた。どうやらユキヤの事で頭がいっぱいで、俺にかみつく気力が失せてしまったらしい。パンクファッションの子とは正反対の反応だった。 「だましてごめんなさい。怖かったし、正直、うっとうしかったの」  思いのほか、素直な子のようだ。俺は「いいさ。だまされるのは慣れてる」と返した。 「もういいかな。あんまり話したくない気分なんだけど」 「ああ、もちろん。別に君を見張ってたわけじゃない」  俺は彩音のそばを離れた。ある程度、距離を置いた後で振り返ると、パンクファッションの少女が彩音を慰めているのが見えた。  駐車場に足を踏み入れると、俺は『ロスト・フューチャー』のメンバーを探した。スペースを埋めている台数はわずかで、ほどなくリアハッチの開け放たれた青いバンが目に入った。近づいてゆくと、後部席とトランクの間を行き来していた人影が足を止め、振り返った。ユキヤだった。 「あんたが、俺に会いたいっていう人か」  ユキヤは俺の姿を認めると、怪訝そうに眉を寄せた。 「はじめまして。泉下 巡と言います。稲本 彩音の叔父と名乗りましたが、本当は叔父の友人です。あなたのお兄さんの事で少しお話をしたくて、うかがいました」 「兄貴の事?」  ユキヤの双眸がにわかに剣を帯びた。警戒すべき人物と映ったのだろう。 「そうです。思い出したくないことかもしれませんが、あなたのお兄さんが関わったとされる、十年前のある事件に、私も関っているのです」 「なんだって?いきなり何を言い出すんだ」  ユキヤはいきり立った。無理もない。俺の用事はどう考えても歓迎すべき内容ではない。 「私には、事件の記憶がありません。少しでも事件から近い所にいた人のお話を伺いたいのです。お兄さんに会わせてくれとは言いません。あなたの知っていることでいいので、少しお話をうかがわせていただけないでしょうか?」  ユキヤが沈黙した。二人の間に、緊張を伴った時間が流れた。 「……Rっていうファミレス、しってます?ここから十分くらいの所にある」  俺は頷いた。バンドの連中と、何度か打ち合わせに使ったことのある店だった。 「じゃあ、そこで四時に待ち合わせましょう。いいですか?」 「わかりました。いきなり失礼な頼みごとをして、すみませんでした」 「じゃあ四時に」  ユキヤは軽く会釈をするとリアハッチを閉じ、後部席に乗り込んだ。青いバンが去ってゆくのを見送りながら、俺は過去への細い糸を見つけたような高揚感を覚えていた。
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