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シー・ラブズ・ユー? ⒇
「あなたが帰った後、しばらくしてまた主犯格から電話が来た。女の子を連れて部屋を出ろという指示だった。兄貴と親友はいよいよ本格的にヤバい状況だと感じた。だがその時にはもう、引き返せない雰囲気だった。逃げることよりも少女を置き去りにすることの方が恐ろしかったんだ。
主犯格からの指示は、彼女を誰にも見られないように地下の駐車場まで連れて来いというものだった。車に乗せられたら、もう逃げられない。そう思いながらも、言われたとおりにせざるを得なかったそうだ。そして駐車場では主犯格の兄弟が待っていた。兄貴と親友、そして女の子は車に乗せられ、連れて行かれた」
「そこから山の中へ?」
「いや。兄貴と親友は、途中のファミレスで降ろされた。そしてこう言われたそうだ。『この店でしばらく待っていろ。三十分くらいしたらリュウとタクという二人組が来るから、そいつらと二時間くらい雑談しろ』とね。言われたとおりに待っていると、それらしい二人組が来た。そいつらは主犯格の兄弟と年恰好や服装がよく似ていたそうだ。つまり、兄貴と兄弟は二人がこれからすることのアリバイ作りに利用されたってわけだ」
「……ということは、お兄さんたちは直接、犯行にはかかわっていないと?」
「おそらくは。警察にもそう言ったけど、結局、アリバイ作りに協力したということで従属犯という形で起訴されてしまったんだ。兄貴と親友は執行猶予がついたけど、世間からしたら刑務所にブチ込まれたのと大差なかった。外を歩いていたら『刑務所にいるはずじゃないのか』と後ろ指を指されることもしばしばだった。結局、犯行グループのうちの一人っていう汚名はぬぐえなかった」
ユキヤはがっくりと肩を落とした。俺はかける言葉がなかった。
「もしかしたら、あんたも罪の意識にさいなまされていたのかもしれない。……けど、結果的に忘れちまったって言う事は、首尾よく過去から逃げられたってことだ。俺がうらやましいって言ったのは、そういう意味なんだ」
「そうか……おそらく、君の言う通りだろうな。教師の後、警官になったのはあるいは少しでも真実と向き合おうという気持ちの表れだったかもしれない。だが、結果的にそれも続かなかった。俺はそうやってこの十年間、事実から逃げ続けてきたんだ」
「でも俺の話を聞こうとしたんだろ?過去を放っておくことができなくなってさ」
「ああ、そうだ。事件当日、被害者のすぐ近くにいたとなれば、なおのことだ」
「俺も同じだ。もう事件の事は忘れたい、そう思う一方でなぜ女の子は殺されなきゃならなかったのか、防ぐことはできなかったのか、真相を知りたいという気持ちもある」
「もちろん、お兄さんも知らないんだろうな」
「そう聞いているよ。でもあんたのことは兄貴にも話しておく。もしかしたら、あんたと話がしたいというかもしれないからな」
「やはり犯人から直接、話を聞くしかなさそうだな」
「犯人は刑務所の中だよ。殺害に関してはいまだに口を閉ざしているそうだ」
「なぜなんだろう。殺したのは間違いないんだろう?」
「それが……実は殺人そのものを疑っている人もいる。だから放っておけないんだ」
「どういうことだい。事故か、自殺の疑いでもあると?」
「それについてはおいおい話す。……とにかく、俺が兄貴から聞いた話はこれでお終いだ」
「わかった、どうもありがとう。色々なことがわかって良かった。いいことも悪いことも」
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