シー・ラブズ・ユー? ㉓

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シー・ラブズ・ユー? ㉓

「……で?俺に何か用かな。ギターを買いに来ただけじゃあ、ないんだろう?」  俺はずばり核心に切り込んだ。少女は大きく一つため息をつくと、昂然と俺を見上げた。 「警察から助けてくれたのは感謝してる。……でももう、彩音の事を監視するのはやめて」  少女は毅然として言い放った。それを言うためにわざわざやって来たのか。 「つきまとうつもりはないさ。依頼には十分、答えたつもりだ。彩音さんが夜のライブハウス通いを続けたとしても、俺にはそれを止める権利がない」 「そう……それを聞いて安心したわ。でも、あなたは彩音の叔父さんなんかじゃない。どうしてあんな依頼を引き受けたの?」  少女は鋭い問いを繰り出してきた。なかなか肚の座った子だ。 「彼女の本当の叔父さんが、えらく心配していたんでね。それに、お母さんも叔父さんも、ライブハウスのつくりには詳しくない。まあ、ちょっとした人助けかな」 「ふうん。人助けね。それほどのお人よしには見えないけど」  少女の追及は容赦がなかった。俺はいささか憤然とした。確かにいい人相とはいえないが、もうちょっと言葉を選ぶべきだろう。 「まあ、確かに他にも理由があるが、それを君に言う筋合いはない」  俺がぴしゃりと言い放つと、さすがにまずいと思ったのか少女は沈黙した。 「これだけ楽器を揃えてるってことは、あなたも音楽をやっているのね」  ふいに少女が話題を変えた。俺は頷いた。 「ああ。『リバイバルブート』っていうロックバンドをやってる。中年バンドだがね」 「ふうん。……ねえ、今度、聞きに行っていい?」  少女がそれまでの生硬な態度とはうって変わった砕けた口調で言った。 「あ……ああ、もちろん。ロックは好きなのか?」 「……正直、わかんない。あんまり聞いたことないから。でもこの間、聞きに行った『ロスト・フューチャー』は悪くなかったと思う」  つまり主体的に聞きに行ったのではなく、彩音の付き合いで行ったということなのだろう。悪くなかったという事は、パンクにはさして抵抗を感じなかったという事か。 「俺のバンドはユキヤ君たちのとはちょっと微妙に違うぜ。暗いといってもいいかな」  俺は自嘲気味に言った。脅かすつもりはないが、少なくとも若向きではないだろう。 「こんな感じの奴?」  少女が天井のスピーカーを指さして言った。曲はレッド・ツェッペリンに変わっていた。 「まあ、似たり寄ったりかな。保証できるのはこれよりはるかに下手だってことだ」  少女は初めて表情を和ませた。俺はいくつかのライブハウスの名を挙げた。 「この辺の店で、いつも演っている。ライブは夜が多い。みんな仕事を持っているからな」 「わかった。もしかしたら私、こっちの方が好きかもしれない。……彩音には悪いけど」 「……言っておくが、中年バンドだ。君たちが夢中になるようなメンバーはまず、期待できないと思って間違いない」 「どうかしら。女の子が夢中になるのは若くて格好いい人ばかりじゃないと思うけど」  少女は意味ありげな笑みを浮かべた。俺が最も苦手とする表情だった。
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