シー・ラブズ・ユー? (7)

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シー・ラブズ・ユー? (7)

 俺の心を波立たせたものは、事件後の自分自身の行動だった。詳しくはわからないが、どうも教師を退職後、俺は警察関係に就職していたようだ。自分の受け持ちの生徒を救えなかったという無念が警察を選ばせたとも考えられるが、自分の性格から考えてほかの可能性があるようにも思われた。  俺はこう考えたのではないか―――真犯人は別にいる、と。  もし俺が誰にも言わずに事件の真相を調べていたのだとしたら……俺がゾンビとなったきっかけにも深い関心を抱かざるを得ない。俺が「死んだ」時期に事件らしきものは起きていない。もし俺の死が「他殺」なら誰かが俺を闇に葬ろうとしたということになるのだ。  そのことに気づいて以来、俺は過去の「自分」の痕跡を調べ始めた。まだこれといった手掛かりは見つかっていないが、そのうち何かが見つかる、そう思っている。 『ロストフューチャー』というバンドのヴォーカルが、実行犯の誰かの兄弟ならば、その人物を通じて直接、犯行に関わった人間から話を聞くことができるかもしれない。  俺が同僚の姪探しを請け負おうとしたのは、俺自身の密かな事情があってのことだった。  同僚が俺の申し出を受け入れてくれた理由は、ひとえに俺がバンドマンだからだった。それまで単なる仕事仲間としか見ていなかった俺を、音楽好きと知って思わず心を許した……同僚のそういう人の好さを利用したといわれれば返す言葉がない。だが、俺には俺の切実な問題があり、ためらっているばかりでは真実は遠のくばかりなのだ。  話を聞いた翌日、同僚から姪の写真が添付されたメールが届いた。母親にはうまく言っておくから、という一文が添えられていた。母親とは直接話すことになるだろうと思っていたので、同僚の気づかいはありがたかった。同時に赤の他人をこうも簡単に信用してしまっていいのだろうかという、自分の事を棚に上げた心配が意識の端にのぼった。 『首尾よく夜遊びを止めてくれたら、お礼させてもらうよ。……殴られた傷は大丈夫かな。虫のいいお願いをしておいてこう言うのもなんだが、無茶はしないでくれ』  メールの文面を見て俺は、同僚の赤ら顔を思い浮かべた。本当に表裏のない好人物なのだろう。俺がゾンビだと知ったらどうするだろう。  おいおい、きつい冗談はやめてくれよ―――こういって笑い飛ばすに違いない。  上手くいけば、そう危険な目に遭う事もなく姪っ子を説得できるだろう。母親が危惧しているような危うい連中との繋がりがなければ。だが、もし面倒なことになったら。  俺は職場で遭遇したハンマー男との一件を思い返した。俺にとってはさほどの事件ではなかったが、目撃した同僚たちの記憶にはショッキングな場面として残ったかもしれない。  ゾンビであり続ける限り、ああいう事はこの先いくらでも起こり得る。それでも、俺は追及せずにはいられないのだ。一体どんな運命が、俺を『生きる屍』へと導いたのかを。
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