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このままでは話が先に進まないと、レイトは大きく咳払いをした。とりあえず、目的であった龍神族に会う事は出来た。後は、依頼のドラゴンについて彼女に話を聞く必要がある。
「あんた、名前は?」
「私はメリル。龍神族長老の孫娘です」
これはまた族長の孫娘という、レイトにとっては何と都合の良い話し相手なのだろう。龍神族の頂点に立つ者の孫娘となれば、色々知っている筈だとレイトは心の中で期待が膨らむ。
「俺も単純に龍神族に会いたくて来たわけじゃないんでね。ある依頼を受けて、あんたに会う必要が出来たからここに来た。少し質問させてくれるか?」
「ドラゴンの事ですか?」
この時、一瞬メリルの表情が曇ったように見えた。その表情をレイトは見逃さなかったが、下手に追い打ちをかけるように質問をした場合、彼女が何も話さなくなる可能性がある。
「いや、とりあえず何であんたがここにいるのかって事かな」
「ここにいたらおかしいですか?」
「あんたも知ってるとは思うけど、龍神族っていえばいるかどうかも分からないような幻とまで言われてる一族だからな。それがこんな町の付近にいるってなったら不思議に思うだろ?」
小手調べ程度の質問をメリルにぶつけてみる。最悪彼女が逃亡を図ろうとした場合、拘束する以外の手は無いが、レイトとしてはあまりやりたく無い選択肢だ。
「龍神族は普通に何処にでもいますよ。ただ、あなた達人間が分からないだけです。あ、でもあなたは例外ですね。居処を知ろうと思えばいつでも出来るでしょうし」
「買いかぶるな。たまたま今回はあんたを見つける事が出来たってだけだ」
「たまたま……ですか。あなたは龍神族の存在を分かっていて、尚且つ今こうして簡単に私を探し当てた。でも依頼がなかったら、あなたは一生私を探す事は無かったんじゃないですか?」
「それはどうかな。興味があれば探しただろうし、なければそのままだったかも知れねえな」
レイトがどういう人間なのか興味があったメリル。しかし、そんな彼は自分に対してあまり興味を持っているようには感じなかった。
「自分で言うのもなんですが……」
「ん?」
「私、そこら辺にいる女性よりも綺麗だと自負しているつもりです」
「ああ。綺麗なんじゃねえか?」
何故か褒められた筈なのに心に突き刺さる。何故なのかは、レイトがそれを特に気にしている様子が無かったからだった。そして興味がそこにはないと分かってしまう事。
「確かにあなたと行動を共にしている女性は私から見てもとても美しいですよ……。でも、そこまで私に興味が無いですか?」
「はあ? 何言ってんだ。興味も何も依頼でって話をさっきしたばかりだろうが」
駄目だこいつ、と口に出しそうになったメリルだったが、それを無理矢理飲み込んで我慢する他無かったのだった。
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