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それは本当に偶然だったとメリルは言った。レイトは、彼女の話に耳を傾けてながら表情は少しずつ堅いものへと変化していく。
「……じゃあ、あんたはコザックを守ろうとしたって事か?」
「ええ……。あなたが魔王を倒した後、平和が訪れたかと思いました。でも、事実はそうじゃない。こんなものが出回ってしまっているんですから」
彼女が懐から出した物。それは、悪魔の代償と呼ばれる一枚の羊皮紙。既に使用されたものだというのはレイトにはすぐに分かった。
「……」
「あなたが黙ってしまうのも無理はありませんね。でも、あなたに責任はない筈です。あなたは、良かれと思って魔王を倒したのです。そして、私達龍神族もそれに歓喜した」
「……いや、俺が魔王を倒した後だったんだ。それが出回り始めたのは」
少なからず自分に責任があるのだとレイトは言った。メリルから羊皮紙を受け取ると、それを使った痕跡を探す。
「やっぱり無理か……。黒魔法なのに何でだ……」
魔法は使用した場所に魔力が微かに残る。それが強力な魔法であればあるほど魔力が残りやすい。黒魔法であれば特に強力な魔法であるため、痕跡が残りやすい上に、レイトであれば使用者すらも特定出来る。
だが、この悪魔の代償は例外だった。
「あなたでさえも無理でしたか……」
「ん、ああ……。龍神族だもんな。あんたも分かってるだろうけど、これだけはどうしても使用者を特定出来ない。多分、何か遮断する力があるんだ。でも、それが何かが分からない」
あらゆる方法を使っても、この悪魔の代償だけは痕跡を辿る事が出来ない。そして何より、その阻害している何かが全くと言ってもいい程に分からないのだ。
(禁術の一種か……あるいは秘術……)
「大丈夫ですか?」
(だとしたら、俺が出来る事の範疇じゃなくなってきてる。錬金術は……いや、不得意だからな……)
メリルの存在など完全に忘れて頭の中で試行錯誤を繰り返すレイト。これには彼女も呆れてしまった。自分に会いに来たのではないのかと自然と苛立ってしまう。
「レイトさん!」
「え?」
声を大きくしてレイトに届くように名前を呼ぶ。ここでようやく自分の世界から現実へと引き戻された。
「私、必要ですか?」
「当たり前だろ。何の為にここまであんな乗り物まで乗って来たと思ってんだ」
「乗り物……?」
乗り物とは勿論、馬車の事である。そんな事は全く知らないメリルの頭には疑問符が浮かんでいた。
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