学園のヘタレ

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 本日の学園の日程は全て終了しており、生徒達は各々と帰路に着く事になる。レイトも他の生徒同様に帰路に着くことになるのだが、彼の場合はこれからが一日の始まりと言っても過言では無い。 「ルーナ、今日の依頼は?」 「ドラゴンの討伐が入ってます」  ルーナは、レイトの側近兼秘書の役割を務める女性である。普段、彼女はレイトの身の回りの世話として食事や掃除などを任されている。とは言っても、彼女自身もレイトルバーン内ではレイトに程遠いが実力の持ち主である。そして、何よりも美人である。その美しい容姿は、レイトルバーン内外で一目置かれており、彼女に想いを寄せる男性も多い。 「んじゃあ、ちゃちゃっと終わらせますか」 「お待ち下さい。今日はその討伐後にギルド内にて会議が行われますので出席のほうをお願い致します」 「会議か……。それって、俺が出る必要性あるか?」 「勿論ございます。会議と言っても定例会も兼ねていますから、あなたは何かと理由をつけて会議をすっぽかして何処かに雲隠れしてしまいますので、他の幹部達との交流も兼ねて出席しろとギルドマスターからのお達しです」 「ったく、あの親父は本当に定例会が好きだねえ……」  面倒だと全身でアピールしながらルーナに言うものの、彼女はそんな事は知った事ではないと言うように目を細めてレイトを見ている。そんな彼女に逆らえないと感じたレイトは肩を竦めた。 「分かった……」 「それで宜しいのです。では、参りましょうか」  ルーナが魔法を発動し、地面に魔法陣が浮かび上がるとレイトはその中に入った。すると、二人は一瞬でその場から跡形もなく消えたのだった。そして二人がまた現れた時、その場所は大きな門が構えられた要塞のような場所に変わっていた。 「何時もの事ながら、転移は好きじゃねえ……」 「情けない事を言わないで下さい。着きましたよ」  ルーナが発動したのは転移魔法と呼ばれるもので、自分の行きたい場所へ一瞬で移動できる便利なものである。しかし、レイトのように転移酔いと呼ばれる一種の乗り物酔いのような状態に陥る者も少なくない。 「あ、レイトさん! お帰りなさいですにゃ!」 「ただいま、ミケ」  ここはレイトルバーン本拠地。門をくぐると、受付嬢であるミケがレイトに気が付いてやって来た。彼女は獣人族と呼ばれる一族の娘である。 「相変わらず、転移酔いに悩まされてるようですにゃ?」 「あぁ、まぁな。これだけはどんなに経験してもな……」  レイトは転移酔いだけではなく、馬車や飛竜といった乗り物全てにおいて酔ってしまう。長い距離を移動する上でどれも欠かせないものだが、彼にとってはそれが全て地獄だった。 「ギルドで働く上で移動手段に一々文句を言われては困ります。転移魔法であれば一瞬の移動で済むんですから、馬車や飛竜に乗るよりは幾分かマシな筈です」  辛辣な言葉をレイトに浴びせるルーナだが、彼の事を一番考えているのは間違いなく彼女である。本当であれば彼自身が転移魔法を使えばいいのだが、わざわざ酔うと分かっていて使うくらいなら歩くと駄々を捏ねたのである。  十七歳にもなって子供のような情けない姿を見せる彼に彼女は仕方なく送り迎えという形で転移魔法を使っているのだ。 「そんな哀れんだ目で見るんじゃねえ」 「情けないとご自身で分かっているから、そういう風に私に見られていると感じるだけです。別に私はそんな風に見ていないです」  本人にも自覚があるだけ幾分かましか、とルーナは小さく息を吐く。これからギルドマスターの待つ執務室へと向かう事になるのだが、理由としては彼が請け負う依頼の難易度によるものである。  ギルドが請け負う依頼はランク分けされており、上からS、A、B、C、D、E、となっている。その中でレイトが請け負う依頼の難易度はSしかない。 「レイトさんならギルドマスターからの許可無くても問題ない気はしますけどね?」 「まぁ、決まりだからな。俺だからって理由なだけで、勝手に受けちまったら他の奴らに示しがつかないからな。仕方ない」 「そうですね! ギルドマスターは執務室にいます。お気をつけて!」  ミケに見送られ、レイトとルーナは執務室に向かった。向かう途中、なぜかルーナの機嫌があまり良くない事に気が付いたレイト。 「何で怒ってるんだよ」 「別に怒ってませんが……?」  レイト本人は何故彼女が不機嫌になっているのかは分からない。しかし、他の所属メンバーは彼女が彼に対して不機嫌になる理由を知っている。そう、彼女はレイトに想いを寄せているのだ。不機嫌になった理由はレイトがミケと談笑していた事に他ならない。  ルーナは元々男性にとてつもなく言い寄られる方だ。しかし、その中でどうしてもレイトだけは彼女に対して、異性としてみるという事がなかったのだ。あくまでもギルドの団員の一人としか見ていない。それに対して問題があるわけではないが、彼には多少なりとも意識させたいところなのだ。
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