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レイトが執務室から出た後、シルヴァは座っていた椅子から重たい腰を上げた。正直、龍神族長老の孫娘を預かる事に関しては些細な出来事だと考えている。だが、悪魔の代償については何よりもシルヴァを悩ませるものであった。
「あいつが魔王を倒してから、もう二年……。悪魔の代償も同じく出回り始めて二年になるのか。あんなものが世界中にあるのだとしたら……」
考えるだけでも目眩を起こしそうになる。魔王を倒したレイトの功績はとてつもなく大きいものだ。だが、それと同時に悪魔の代償が出回り始めた。レイトは口には出さないが、自分が魔王を倒してしまった事が要因ではないかと考えている。それはシルヴァにも分かっていた。
では、魔王を倒さなければ良かったのかと言えばそうではない。少なくとも彼が倒した事で救われた者達が大勢いるし、被害に遭う事がなく終わった者もいるのだ。
「どちらにせよ、早く対処しなければな……」
場所は変わり、メリルを連れたルーナはゲストルームまでやって来ていた。
「しばらくは、ここでメリルさんには過ごして頂く事になります。何かありましたら、団員に何でも言ってください」
「ありがとうございます。ところで……」
ゲストルームへと案内されたメリルは、ルーナを呼び止めた。一度シルヴァに報告する予定だった彼女は、声をかけられると思っていなかったのか少し目を見開いた。
「どうされました?」
「私に何か思うところがあるんじゃないのかなと……」
「思うところ……」
この時、ルーナは平静を装ってはいたものの、心臓は激しく鼓動を繰り返していた。自分でも明らかに彼女に対して敵意とまではいかないが、個人的な思いがあったのは間違いではなかった。
「いえ、ありませんよ」
それでも、あくまで嘘をつく。これは彼女の微かな抵抗であり、看破されている事など百も承知の上で言ったのだ。
「なら良いのですが」
「私の事はお気になさらないで下さい。これは、レイト様が決めた事なので、彼に全て任せていますから問題ありませんよ」
そう言うと、ルーナはメリルからそれ以上の詮索を受けない為にもゲストルームの扉を閉めた。歩みを進め、ゲストルームからある程度遠ざかった所でルーナを足を止めて小さく息を吐いた。
「彼女には私が嘘をついてる事くらいすぐ分かるのに、なんで私はくだらない嘘をついてしまったんでしょうね……」
ギルドの任務である事は重々理解している筈なのに、個人の感情を抑え切れない事にルーナは落胆せざるを得なかった。
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