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「よっと」
自分の背丈の数倍はあろうかという大木を、地面から一度の跳躍でほぼ一番上まで登ったレイト。彼は現在、コザックから少し離れた場所に位置する森の中へとやって来た。
「さぁて……どうする」
ドラゴンの魔力を追ってここまでやって来たが、何故か今いる場所で突然魔力が消えたのだ。
「さすがに消えちまったら追うのも一苦労だわな」
レイトは一度、大木から飛び降りて地面に着地すると、そのまま地面に右手を置いてを目を閉じた。
(消えるなんて事は絶対にあり得ない。必ず、何か手がかりがある)
地脈から微かに残る魔力を感じ取る。これは彼にしか出来ない芸当だ。集中力を己が出来る最高の状態を維持しながら感知能力を底上げするのだ。
「あそこか」
目を開いてその場所を確認する。何もないように見える森の中だが、レイトにははっきりと魔法で造られた壁が見えた。
「魔法壁か。こりゃあ、普通の人間には出来る芸当じゃねえな」
魔法壁とは、簡単に言えば結界のようなものだ。創造した本人の意思に従い、入れる者を限定する事が出来る。その意思に反して無理にその魔法壁の中に入ろうとすれば、その者が消滅してしまうと言われている。
そんな便利な魔法壁だが、一つ難点として常に創造した者の魔力を消費していく事が挙げられる。それは魔法壁の大きさにもよるが、半径一メートル程度の魔法壁を発動する場合、魔力が多い者で十分程度しか持たないとされる。
「これだけの大きさって事は、やっぱり龍神族だな」
レイトが、昔読んだ事のある文献に龍神族の事が書かれていた。龍神族の存在を知ってはいたものの、自分が今まさにその幻の種族に会えるかというところまで来ている。
「さて……」
レイトは右手を上げて、その魔法壁に向けた。勿論それは魔法を放つためだ。そして、先に言わなければならない事がある。それは、魔法壁は壊れないという事だ。
魔力を消費し続ける欠点はあるが、それ以上に絶対に壊れないという利点が大きいのだ。しかし、彼にはその利点など通用しない。
「絶対に壊れないっていうこの魔法壁だが、俺には通用しねえよ?」
まさに今、レイトが魔法を放たんと魔力を右手へと集中させている時だった。
「お待ち下さい」
突然、何処からか声が聞こえる。レイトの耳には確かにその声が届いた。魔法を放とうと魔力を集めていた右手を下ろし、レイトは声の聞こえる方へと身体を向けた。
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