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グロンが訓練所からいなくなり、レイトが気怠そうに立ち上がった。
「痛え……」
「痛いでしょうね」
何を当たり前な事を言っているんですか、と言わんばかりの表情でレイトに言い返すルーナ。そんな言葉と少し冷たく感じる表情にレイトはバツが悪そうな表情を浮かべた。
「悪かったよ」
「何が、ですか?」
聞きたい言葉は、ただの謝罪ではない。何故、謝ったのかであると少し言葉を強めた。
「お前の嫌いな武力行使ってやつをしてさ」
「そこは分かっているんですね。でも、それが必要だとあなたは思ったからそうしたんですよね? 私に後ろめたい事を感じる必要ありますか?」
ない、と言えば嘘になる。レイト本人が考えた結果がこれになってしまったのだ。他の団員達に何かを聞けば、もしかしたらもっと良い方法が見つかったかも知れない。
「……」
「……はぁ。まあ、私としてはあなたが考えて行動した事は素直に評価出来ると思います。今までだったら、勢いで何とかしようとしたでしょうから」
レイトにお灸を据えるという意味では、もう少しこの時間を設けてもいいのかも知れない。しかし、ここは彼の進歩を素直に褒める事にしようとルーナは思った。
「……なんです?」
褒めたつもりだったのだが、レイトの表情は驚きのあまり目が大きく見開かれていた。
「お前が、俺を褒めてくれるとは思わなかった」
「私だって、いつも厳しいわけじゃありませんよ」
彼の目に、普段のルーナはそう見えていたのだろう。そんな風に思われていたと思うと、少し悲しくなってきてしまう。
「んな、悲しそうな顔すんなよな。いつもなんて言ってねえだろ? 今みたいな時にお前が俺を褒めてくれるなんてないって話だ」
レイトとしては、あまり彼女のそういう表情は見たくない。内心焦りながらも、いつも通りを装いながらそう言った。
「少し心外です」
「悪かったって。まあ……元はと言えば俺のせいだしな。今後は、こんな事にならねえようにはするよ」
反省の態度を見せるレイトに、ルーナは少し満足したのか彼に手を差し伸べた。
「歩くのもやっとでしょうから、手を引いてあげます」
「いらねえよ。子供じゃねえんだから」
そんな他愛のない会話をしながら、二人は訓練所を後にするのだった。
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