2.真夜中のご依頼

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*** 「面倒な事になった……」  事務所で一人、留守番中の吾郎は、煙草の煙を吐き出した後、そう呟いた。  そもそも報酬のない依頼を受けて、一体誰が得するというのだ。味を占めてまたやって来る奴らばかりじゃないか。  傍に置かれている銀色のアタッシュケースに、ふと目をやる。 「……全く、信用出来るのはお前だけだよ」  吾郎はそう呟くと、持っていた煙草を咥え、アタッシュケースを自分の膝の上に乗せた。慣れた手つきでケースを開ける。中から現れたのは、整然と並んでいる札束だった。まるで、今から取引に行くのかと思われるほど。勿論吾郎にそんな予定はない。咥えた煙草がその口から落ちてしまいそうになるくらいににたにたしながら、彼はそれらを丁寧に一枚一枚数えていった。  この時間が、彼にとって至福の一時である。普段はやかましい旭がいるので、こんな事は出来ない。彼がこの光景を見れば、すぐさまばら撒いて「シャワーだー!」とかやりかねない。  銀行員だった頃の仕草が抜けず、定期的に札束を弄らないと我慢出来ない。一種の中毒である。幽霊になって金を使う時などないのに、今も彼はこうして財産を大事にしている。 「ただいま……」  突然扉が開いて、吾郎は飛び上がって驚き、慌てて札束を隠す素振りを見せた。しかし、扉の前に立っている人物を見て、ほっとしたように溜息、それからお得意の嫌みったらしい台詞を吐く。 「……何だ、キンダイチか」  可笑しな格好で蹲っている吾郎を見て、一はきょとんとしていた。 「何だって……あっ、吾郎さん、煙草」 「暫くの間だ、我慢しろ」 「もう……せめて灰皿使ってくださいよ」  一はそう言って、テーブルの上の灰皿を差し出した。吾郎はそこに煙草の灰を落として、また札束を数えだす。一は困ったように溜息をついて、吾郎の傍に灰皿を置いた。 「それで?」  背を向けた一に、吾郎は視線を動かさないまま声を掛けた。 「それで……って?」 「だから、行って来たんだろ? 学校」  あぁ、と笑って、一は話を始めた。
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