2.真夜中のご依頼

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 一は骸骨に連れられ、山咲小学校へと向かった。昼間なので、あの教員の他にも教員はいるし、児童たちも遊びに来ている。そんな中行って大丈夫かと一は思ったが、骸骨曰く、中に入れるのは図書館と職員室、一階のトイレだけで、昼間は教員も見回りをしていない、だから大丈夫だという。しかし結局校舎の中に入るまでは、誰にも見つからないようにこそこそしなくてはならなかった。一は普通の人には見えなくとも、骸骨は誰にでも見つかってしまうからだ。昼間なので仕方ない。一体どっちが良いのか、一には分からなかった。  三階の理科室に連れて来られると、学校中のお化けが勢揃いしていた。噂には聞いていたが、いざ見てみると、動くベートーベンの肖像画や花子さん、その他諸々、本当にいるんだ、と驚きを隠せなかった。尚、二宮金次郎は校庭の隅にいる為、あと腰痛持ちであまり動けないというので、この場にはいなかった。 「キンダイチ先生ですか!」 「お噂は兼々!」  声を掛けられ、その場を振り返ったが、視線の先には誰もいない。 「あれ?」 「此処です! 此処!」  もう一度声をよく聞いてゆっくり視線を動かすと、黒板の粉受けの所に、二体の人形が鎮座していた。着せ替えが出来るのか、二体とも赤いジャージを羽織っている。 「初めまして! 僕はミカンです!」  左に座っていた茶髪の人形がそう言った。赤いジャージの下に着たTシャツには、蜜柑のアップリケが付けられている。 「僕はスダチです!」  右の人形が言う。右目の下にある黒子が可愛らしかった。勿論中のTシャツには酢橘のアップリケ。  彼らは家庭科の教員によって作られた人形なのだという。時々彼らを操って行なう授業は、児童たちからも評判が良いそうだ。  ところが、いつもはにこにこしているであろうその口の縫い目が、今日はしょんぼりと下を向いていた。 「すいません……見つかったのは、僕たちなんです」  ミカンが重い口を開き、スダチも隣で申し訳なさそうな表情を浮かべていた。  数日前、二体は音楽室へとやって来た。ミカンとスダチの歌は他のお化けたちからも評判が良く、毎年文化祭で披露しているのだ。今年も張り切って練習に励んでいた。  ミカンの吹く鍵盤ハーモニカ、スダチの弾くギター、音楽室だから、多少の音は外へ聞こえないと思っていた。ところが……  ――がらっ!  突然音楽室の扉が開いたかと思うと、眩い光線が飛び込んで来た。二体は驚いて、ピアノの下に隠れる。 「誰かいるのか!?」  すぐさま、怒声が飛んだ。二体はびくっと体を震わせる。見回りの教員だ。  こつこつと、大きな足音が二体の鼓動を早くする。 「怒らないから、出て来なさい!」  もう怒ってんじゃん! と叫びたくなるのを堪え、二体は身を寄せ合って息を潜めていた。  すると、ピアノの傍で足が止まる。 「隠れていても分かるんだぞ」  低く響くその声は、段々と近付いて来る。ピアノの下を覗き込もうとしているのだ。  かっ、と照らし出されたピアノの下には――何の姿もなかった。  教員は不思議そうに、その後も音楽室の隅々を探し回ったが、結局何も得られず、首を捻りながら音楽室を出て行った。  その瞬間、ピアノの裏側に張り付いていたミカンとスダチが、びたんと床に落ちて来た。 「いたた……見つかってない、よな?」 「うん、見つかってない、けど……」  二体は言い知れぬ嫌な予感を持たずにはいられなかった。そして案の定、それは現実になってしまったのである。
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