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幽霊になるとこそこそする必要もなく結構便利だ。だから職員室へは、堂々と入る事が出来た。
「キンダイチ先生!」
雄二の机の上に、小さな影が二つ。ミカンとスダチだ。焦ったように飛び跳ねて一を呼んでいるので、足早に歩み寄った。
「キンダイチ先生、どうしましょう。雄二先生、本当に本気なんです」
喋りだした人形に驚いている吾郎を他所に、ミカンは焦りを抑え切れない様子だった。一方のスダチも、すっかり憔悴し切っている。自分たちの所為だという気持ちが根を張ってしまっているのだろう。
「大丈夫、何とかするよ」
一は彼等の不穏なオーラを振り払おうと、いつも通りの笑顔を見せた。それを見て、二体も少し笑顔を取り戻す。
その時、ふわりと二体の身体が浮き上がった。
「うわっ……!?」
見ると、吾郎が二体を両手で摘まんで持ち上げている。まじまじと不思議そうに、二体を見つめていた。
「わぁーっ! よ、よしてください!」
慌てた様子でじたばたするのはスダチだった。膨らんだ腕で顔を覆う。その時、背負っていたギターが吾郎の手に触れた。
「おっ……なんだ、アコースティックか? 弾けるのか?」
ところがスダチはじたばたするばかりで、頻りに下ろしてくれと叫び、吾郎の言葉など一切耳に入っていない様子だ。吾郎は仕方なく、そっと二体を下ろす。足に感触を得た途端、スダチはちょこちょこと走り出してミカンにしがみついた。
どうやらスダチは、高い所が苦手らしい。ぎゅっと目を瞑ってしがみつくスダチと、彼を宥めるミカンの愛くるしい様子に、何だか癒される。
しかしそこでふと、一の頭に一つの疑問が浮かんだ。
「……ねぇ、確か、雄二先生に見つかりそうになった時、ピアノの裏に張り付いたんだよね?」
そうです、と頷くミカンに、一は質問を続けた。
「スダチ君、大丈夫だったの?」
「大丈夫な訳ないじゃないですかぁ!」
スダチのこの叫びからも十分分かるように、どうやらあの時も苦労したらしい。
すると、
「ギターの子が、スダチか?」
突然、吾郎がそう尋ねた。意外にも二体に興味を持っている。スダチは漸く目を開けて、吾郎を見上げた。
「は、はい。僕ですけど……?」
「それ弾けるのか?」
吾郎はスダチの背負うギターを指差した。スダチがこくんと頷くと、ミカンも吾郎の方を見上げて言う。
「僕たち、この文化祭で演奏するんです」
「へぇ。どれ、弾いてみろ」
「えっ! い、今ですか?」
当然と言わんばかりの吾郎の表情に、ミカンとスダチは顔を見合わせる。
その時だった。
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