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一が自分の墓を探偵事務所として開業したのは、丁度一年前だった。ところが、開業する前から、彼の墓には沢山の幽霊が押し寄せて来ていた。その理由は、彼の紛らわしい名前にある。
彼の墓に刻まれている “金田一之墓” という文字。これがいけなかった。
「私の悩みを聞いてください!」
「実は、どうしても見つけたい物があって……」
「お願いします! キンダイチ先生!」
かの有名な名探偵、金田一耕助の墓と間違えたのであろう幽霊たちが、ひっきりなしにやって来たのだ。
そもそも、金田一耕助の物語はフィクションで、彼は現実に存在しない。ところがそれを分かっていない人は意外と多くいるもので、一は困ってしまった。
しかし、そう思われるのも無理はない。実は一の名前は、父の熱烈なミステリーファンが影響している。自分の苗字が “金田” だった事に、きっと彼は狂喜したに違いない。一が生まれた時、いやその前から既に、名前は決まっていただろう。
一もそんな父の影響があるのか、生前は刑事として職を全うしていた。まだ若かったがその業績は折り紙つきで、期待の刑事だったのだ。ところが命を落としてしまう瞬間は、呆気なく訪れてしまった。
もう捜査に参加出来ない事を寂しく思いつつ、これからはゆっくり過ごそう、と思っていた所へやって来る幽霊たち。最初は嫌がっていた一も、世の為人の為と、こうして事務所を開業したのである。
キンダイチ先生は忽ち霊園の人気者。そこに目を付けてやって来た幽霊がいた。
「ねね! 僕、先生の弟子になるよ! 先生のサポート、いーっぱいするからさ!」
旭はそう言って、この事務所に来るようになった。小学三年生と、まだ幼さの残る彼は、その旺盛な好奇心を、幽霊たちの持って来る事件に関わる事で満たせると思っていたのだ。
また、その繁盛っぷりに目を付けてやって来た幽霊も。
「私は人生の先輩だ。お前みたいな若造より、二倍も三倍も世の中ってもんを知ってる。今日から私がお前のサポートをしてやるよ、キンダイチ先生?」
吾郎はその日から、事務所に居候しているのである。彼は生前銀行員として働いており、金やそういうものには人一倍目がないのだ。ところが、一が報酬を全く受け取っていないという事を知って、すっかり態度は変わっている。それでも暇つぶしに、こうして事務所にのさばっているのだ。
そんな一癖も二癖もある幽霊に囲まれながらも、彼は何かと楽しい日々を送っていた。
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