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2.真夜中のご依頼
乾いたノックで、一は目を覚ました。
闇深い夜、時刻は丑三つ時である。一は名残惜しそうに欠伸を繰り返しながら、扉の方へと歩いて行った。
ふと目線を横にやると、ソファの上で横になる旭の姿がある。今日は泊まってく! と一人でわいわい騒いでいたのは何処へやら、赤ん坊のように眠っている。
一方の吾郎も、椅子に座ったまま眠ってしまっている。銀色に輝くアタッシュケースを大事そうに抱えて。
一は部屋を出ると、目の前の長い階段を上り始めた。
墓石の下にあるのは、必ずしも遺骨であろうか。案外そうでもない。
墓石を動かし、下へと続く階段。その先にあるのは、墓場からは想像出来ない、温かい部屋である。そこで幽霊たちは思い思いの時間を過ごして暮らしている。趣味に熱中したり、バーやカフェをオープンしてみたり。勿論、普通の人間には見えないが。生きている人間が悲しむ程、死者は苦しい生活を強いられている訳ではないのである。寧ろ、生前より楽しく過ごしている幽霊も多い。
一は階段を上りきり、真上の墓石を動かした。丁度満月が真上に来ていて、月明かりが差し込んで来る。
すると、覗き込むような影がぴょこんと現れた。その影の異様な形に、一は驚きつつも、その相手が誰なのか分かった。
「すいません、遅くに……」
覗き込む相手が、申し訳なさそうに頭を掻いた……と思う。ストライプ模様のその影だから、どれが何処の体のパーツなのか、いまいちぴんと来ない。
「今、大丈夫ですか?」
相手が言ったが、一は正直まだ寝ていたかった。未だ生前の習慣が抜けない幽霊は多い。真夜中に飛び出して悪戯をしに行く者なんて、何を考えて何処にそんな元気があるのか訊いてみたいものだ。
そんな一の思いが顔に出ていたのか、相手はまた申し訳なさそうに言う。
「すいません……私、この時間にしか動けないもので」
相手の事を大体察していた一は、頷くしかなかった。墓石をどかして、どうぞ、と下へ降りるよう促す。相手は嬉しそうにぺこぺこ頭を下げながら、階段へと向かった。歩く度に、彼の体からはからからと音が鳴る。階段を降りて行く時、漸く彼の姿がしっかり見えた。
月明かりに白く浮かび上がっていたのは、紛れもなく骸骨であった。
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