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気がつくと、私は、施設の駐車場に立っていた。 そこには、もう、少年も猫もいなかった。 まぶしいほどの朝の光の中、私は、ただ一人、立ち尽くしていた。 私は、ふと、笑ってしまった。 夢だったのだ。 存在していたかもしれないけれど存在しない世界も、存在していたかもしれないけれど存在しない子供も、全てが、私の白昼夢だったのだ。 不意に、なんとも言えない感情に襲われ、私は、涙ぐんだ。 そんなことが、在るわけがないのだ。 存在していたかもしれないけれど、存在しないなんて。 馬鹿馬鹿しい。 その時、何かの気配を感じて、私は、顔を上げた。 この明るい光の中にいるとは思えないほど暗い影が、そこに立っていた。 長い黒髪の、全身黒づくめの青年の姿をした影は、確かに、私を見つめて言った。 「お前が、新しい神、か?」 私は、答えられなかった。 その青年から発される気が、痛かった。 それは、私にもはっきりとわかるほどの殺気だった。 私は、息を飲んだ。 殺されるのだ。 私は、今、ここで、この名も知らぬ青年によって、殺されるのだ。 青年の手の中に巨大な剣が現れるのを、私は、見ていた。 美しい剣だった。 「神殺しの剣、だ」 青年が言った。 「我が神より賜りし剣だ。この剣なら、不死の存在であるお前を殺せる」 朝の光を受けて剣が鈍く輝くのを、私は、魅せられたように見つめていた。 青年が、剣を振り下した。 私は、目を閉じた。 死。 「危ない!」 誰かの声が聞こえた。 ほぼ同時に、誰かの断末魔が聞こえ、生暖かい何が私に降りかかるのを感じて、私は、目を開いた。 血。 私は、血の海の中に、血塗れで立っていた。 「何、これ」 「大丈夫か」 知らない若い男が、私の前に立っていた。 白い髪を短く刈上げた、眠たそうな目をした男だった。 その男の後ろにあったものに、私は、戦慄を覚えた。 そこには、かつて、一人の人間だったと思われる物が、無惨に切り刻まれて散らばっていた。 それは、たぶん、服装の断片からして、私の知っている人間の死体だと思われた。 同じ施設で働く同僚の男性だった。 「なんで」 「行くぞ」 白い髪の男が呆然と立ち尽くす私の手をひいてその場を離れようとした時、女の悲鳴が聞こえた。 「誰か、誰か、来て!」 「行くぞ!」 白い男に引っ張られ、はっ、として、私は、男の手を振り払おうとした。 「どこに行くって」 「どこでも、いいから」 白い男は、私の手を強く握ると、私を引っ張って走り出した。 「逃げるんだ!早く!」 私たちは、そこから駆け去った。 黒い影が叫ぶ。 「逃がすか!」 私たちを追おうとした黒い男の手足に集まってきていた人々が取り付いていくのが見えた。 「離せ!」 黒い男が言ったが、人々は、男の全身に取り付いて離れようとしなかった。 「何?」 私は、振り向いて、彼らを見た。 「とにかく」 白い男は、言った。 「走れ!」 男にひかれて、私は、走った。 私たちの背後で、人々の悲鳴や、鳴き声が聞こえた。 何が、起こっている。 私は、男に手をひかれ、懸命に走りながら考えた。 何かが、おかしい。 こんな世界、何かが、変だ。
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