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そこにいる
なんでみんな気づかないの?
あいつがそこにいるのに。
わたしをずっと見ているのに。
初めて気づいたのは学校。
体育館でバスケの練習をしているとき、ゴールの下にあいつがいた。
目は見えないのにわたしを見ているということだけは、なぜかはっきりと感じられた。
下校中も友達と喋っている時、後ろに気配があった。
家でテレビを見ている時も、黒いテレビの画面にあいつが確かにくっきりと映っていた。
なのに。
誰もあいつが見えない。
あいつがいることに気づかない。
わたしが何をしたの?
寝ている時も寝室のドアの近くにいて、見られていると思うとほとんど寝られなかった。
授業中も教室の後ろにいて集中できないのと寝不足なのとで、成績がどんどん下がっていった。
全部あいつのせいなのに。
成績が落ちてなぜかわたしが怒られた。
あいつのことは言えない。
わたしがおかしいと思われる。
だって、あいつがいるのに誰も見えない気づかない!
夏休みに入った。
友達に誘われて、わたしは遊びに行った。
あいつがいると思うと落ち着かなかったけど。
夏休みだからか人が多かった。
人ごみの中、わたしはふと後ろを振り返る。
人ごみの中からあいつがじっとわたしを見ていた。
こんなに人がいるのに。
誰も気づいてくれない。
友達も、サラリーマンも、家族連れも。
あいつになんで気づかないの?
わたしは走り出した。
あいつから逃げなくちゃ。
わたしは走る。
あいつは、まるで瞬間移動でもしているかのように振り返るたびにわたしの後ろにいた。
どうして。
どうして逃げられないの?
わたしは走った。
目の前に赤信号の横断歩道があった。
でも、あいつがわたしに追いついてくる!
あいつが来る、と焦っていた。
だから、横から来ている車に気がつかなかった。
気づいた時には、潰れていた。
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