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カレースープを飲んでいた千尋も笑った。器から視線を上げ、目を瞬き、目配せする。その好奇心旺盛な瞳の光の色を読み取って、内緒話をするように小さな声で囁きかけた。
「ねえ、千尋君も好き?」「俺も好き……」
口許に握りこぶしを当てながら何故だか、彼は照れ臭そうにはにかみ、そう口にした。彼女はとびきり嬉しくなって、明るく誘う。
「半分にしよう! ナイフがあったかな?」
千尋はほくほくした表情でこくんと頷く。紙皿の上、ナイフで切り分けたおむすびの、その半分を彼女の手から手に受け取る彼だ。
「初めての共同作業! パンパカパーン!」
「それで、初孫はいつなの? 生まれたの」
後輩たちに茶化され、千尋は盛大に照れ、キーラもはにかみ、終始、和やかムードだ。
丸くて白い紙皿の上に、黒い海苔の巻かれた鋭角な二等辺三角形のおむすびの中心に、半分に割られた卵の鮮やかな色彩の黄身が、夜中の海に浮かぶ黄色いお月さまのように、にっこりと顔を覗かせていて、微笑ましい。
そう言えば、嵐の夜も二人とも目玉焼きと海苔を乗せたトーストを分け合っていたと、重雄や桜介は思い当たって、ほのぼのする。
向き合って鏡のような動きをして仲良し。皿の上にあるおむすびを揃って食べ始めた、変わり者カップルを、重雄と桜介は眺める。
何て、幸せなのだろうと穏やかな気持ち。殺伐としていた母校にはなかった華やかさ。妖魔が人間界で暮らすために通う学び舎で、不良少年だった彼らには憧れるまでのそれ。
「幸せだねえ、シゲ」「ああ、おうちゃん」
そして遅めの朝食が済むと、席を立った。後が閊えているため、長居はできないので、フロアを抜けて混雑した渡り廊下に抜ける。辺りに立ち込める、むんむんとした熱気に、堪らず四人は薄着になり、並んで歩き出した。
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