それは、冷ややかな

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「そう。冬の間に作られて、冷凍庫で保存されていた雪兎が日陰の道に捨てられてしまうの。それで雪兎は、ゆっくりと溶けて無くなる自身を悲しんでいると、蝉が木の上から話かけるの。「ウサギのお姉さん、泣かないで」ってね。蝉は物知りで、雪兎の知らない世界を沢山教えてくれる。そのうちにお互いは段々と惹かれ合っていった」 「ふぅん。今度は甘酸っぱいラブストーリーなんだ」 「でも、沢山話して、沢山愛を囁き合ううちに蝉に異変が現れる。・・・寿命だったの」  彼女は、悲しそうに俯きながらも静かにぽつりぽつりと物語の続きを話し続ける。 「雪兎は目の前で死なんて目撃したことは無いから、木から落ちて仰向けになった蝉に向かってずっと語りかける。どうしたのって、また話そうよって。そうしていくうちに雨が降ってきて___」 「ねぇ。アイス、食べない?暑いし…そろそろ休憩しようよ」  彼女の話を、遮った。  分からない。分からないけれど、彼女の物語を最後まで聞いてしまったらいけない気がした。もしかしたら、暑さのせいで気付かないうちに体調が悪くなってしまっていたのかもしれない。  そう思いながら、僕は立ちあがって、冷蔵庫の方へ足を向かわせた。フローリングに汗ばんだ素足がひっついてぺたぺたと音がする。
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