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「……勇星?」
ぽかんと口を開けて見つめる先では、勇星が不敵に笑っていた。
今、何が起きたのか。
勇星の唇が触れた。俺の口に。ということは、つまり……
「っ……!」
勇星に、キスされた──!
「ちょ、っとぉ! 何すんだよお前っ、……何もしないって約束したのに!」
憤りながらも、俺の目は半開きだった。舌ももつれている。
「反応遅すぎ。約束もしてねえし」
「だってあんた、小便臭いガキには手は出さないって……!」
「それは約束じゃねえ、予想だ」
酔いと混乱で目の前が回る。もしかして俺はとっくに酔い潰れて、夢でも見ているんじゃないだろうか。
「な、なんでキスしたの……?」
「お前が煽ってくるからだろ。無防備だし」
「そっ、そんなことしてねえっ! それに俺は無防備なんかじゃ──」
するとまた、勇星が今度は俺の頬に唇を押し付けてきた。
「ほれ、隙だらけ」
「なぁっ……」
そしてまた頬にキスをされる。そしてまた。続けて二度、三度──四度。
「や、やめろってばぁ! ちょっと、……馬鹿!」
「ほれ、ほれ」
もはやゲーム感覚でキスを繰り返してくる勇星。酔っているせいか、いちいち反応が遅れてしまう。その体を突き飛ばそうにも腕に力が入らず、しかも肩が勇星の手によってがっちりと固定されているため、文字通り手も足も出すことができない。
「このキス魔、いい加減に──」
「音弥」
「──んっ」
もう何度目かのキスかは分からない。……分からないけど、今度のキスは今までのそれとは全く違うものだった。
「や、やめ……」
舌で無理矢理に唇を割られ、そのまま口の中に勇星の舌が入ってくる。歯列をなぞるようにして動き──それから、逃げ場のない俺の舌先をあっさりと絡めとられる。
「は、……やだ、ゆう、せ……」
息が弾み、体が震え、頬が熱くて視界が滲む。力の入らない手で勇星のシャツを握るのが精一杯だった。初めてのキスをまさか、男同士ですることになるなんて。
「わっ……」
俺が抵抗しないと悟ったからか、唇を合わせたままで勇星が体を倒してきた。
「ちょっ、と……待って、一旦落ち着いて、勇星っ……」
押し倒されてしまったらもう、その先の展開は決まっている。酔っていてもそれだけは避けなければと、俺は両手の力を振り絞って勇星の顔を遠ざけた。
「痛てえな」
「ご、ごめん。……じゃなくて、駄目だってば! と、取り返しつかなくなるっ」
「何の」
「だって俺達、同じ職場で働いてるんだし……。ぎこちなくなって気まずくなったら、子供達にも変な思いさせちゃうし……」
「男同士って部分には触れねえのな」
「や、当然それもあるけど……」
勇星の手が、俺のシャツを捲り上げた。
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