300人が本棚に入れています
本棚に追加
「おいっ! だからやめろって、……」
「最後までやらねえよ。ただ、お前の声が聞きたいだけだ」
「意味分かんねっ、……あ!」
その指で乳首を弾かれ、少し力を込めて摘ままれる。
「やだっ、そんな……すんなっ!」
「やだじゃなくてさ。音弥、集中してみろ」
「こんな状態でっ……何に、集中しろって……」
「シ」
勇星が口元に人差し指をあて、笑った。
それからまた、ゆっくりと胸の突起を指で抓られる。今度は優しく、……そしてまた強く、弾かれる。
「んっ……あ、……」
予想できない勇星の指の動きに、思わず甘ったるい声が出てしまった。勇星が言った「声が聞きたい」って、まさかこの情けない声のことか。
「や、だ、ぁ……」
フローリングの床にべったりと背中をつけ、シャツを大きく捲られた状態で、乳首を弄られて。俺は両手で顔をかくし、駄々をこねるように首を振った。
「もうやっ、……やだ!」
「乳首、あんまり感じねえか」
「そ、そういうことじゃなく、て、ぇ……!」
「何だ、感じるは感じるのか」
俺の反応を観察するかのように、勇星が体のあちこちを触ってくる。まるで医者が触診しているみたいだ。だけど、肌を這うその指先は──
「──ひゃっ」
「くすぐってえか?」
「い、……や、……何か、変っ……」
俺の知らない、体の深いところを絶妙な力加減でくすぐられ、撫でられているようで。勇星の指は腹からヘソの辺りをなぞっているだけなのに、どういう訳か皮膚の向こうのもっと奥、名前も知らない部分がぞわぞわする。
「変な声、出るっ……」
「敏感なんだな、音弥くん」
「違うっ、勇星が変なとこ、触るから、ぁ……」
「……もう少し腹筋鍛えた方がいいぞ、音弥。腹に力入れてみろ」
勇星の指が離れ、今度は拳があてられた。腹を殴られるのかと思って、一瞬、体が強張ってしまう。
「ちょっと腹押すぞ。俺の手を腹筋で押し返すように、力入れろ」
言った通りにゆっくり、ゆっくりと、俺の腹筋にあてた拳へ勇星が体重をかけてくる。これに何の意味があるのかは分からないけれど、とにかく俺は言われたように腹筋に力を込めた。
「んっ、……ん」
運動なんて幼稚園での体操くらいしかしていないから、体がなまっているのは知っている。
「いい感じだ。まだ弱いけど、ちゃんと押し返してきてる」
「こ、これ意外と疲れるんだけど……」
何度かに分けて勇星の拳を押し返してから、俺は「ぷはあぁ」と全身の力を抜いた。腹の辺りが熱い。時間にしてたった五分にも満たないけれど、何だかちゃんとした腹筋トレーニングをした後みたいだ。
「な、何なんだよ、これ……。何がしたかったんだよ……」
「音弥くんの、腹筋具合をちょっとな」
「……腹筋フェチなのか?」
「まあ、そんなとこ」
そう言って、勇星が俺の上に体を倒してきた。
「合格」
「……嬉しくねえ」
勇星の手がベルトにかかる。
「………」
駄目だと分かっているし、俺に男の趣味はないのに。何故か抵抗しようという気にならない。まだ酔っ払っているからか、童貞ゆえの興味があるからか、それとも……
道介を笑わせたこの男に、何となく──人としての魅力を感じてしまったからか。
最初のコメントを投稿しよう!