ゆう先生とまさかの夜

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「おいっ! だからやめろって、……」 「最後までやらねえよ。ただ、お前の声が聞きたいだけだ」 「意味分かんねっ、……あ!」  その指で乳首を弾かれ、少し力を込めて摘ままれる。 「やだっ、そんな……すんなっ!」 「やだじゃなくてさ。音弥、集中してみろ」 「こんな状態でっ……何に、集中しろって……」 「シ」  勇星が口元に人差し指をあて、笑った。  それからまた、ゆっくりと胸の突起を指で抓られる。今度は優しく、……そしてまた強く、弾かれる。 「んっ……あ、……」  予想できない勇星の指の動きに、思わず甘ったるい声が出てしまった。勇星が言った「声が聞きたい」って、まさかこの情けない声のことか。 「や、だ、ぁ……」  フローリングの床にべったりと背中をつけ、シャツを大きく捲られた状態で、乳首を弄られて。俺は両手で顔をかくし、駄々をこねるように首を振った。 「もうやっ、……やだ!」 「乳首、あんまり感じねえか」 「そ、そういうことじゃなく、て、ぇ……!」 「何だ、感じるは感じるのか」  俺の反応を観察するかのように、勇星が体のあちこちを触ってくる。まるで医者が触診しているみたいだ。だけど、肌を這うその指先は── 「──ひゃっ」 「くすぐってえか?」 「い、……や、……何か、変っ……」  俺の知らない、体の深いところを絶妙な力加減でくすぐられ、撫でられているようで。勇星の指は腹からヘソの辺りをなぞっているだけなのに、どういう訳か皮膚の向こうのもっと奥、名前も知らない部分がぞわぞわする。 「変な声、出るっ……」 「敏感なんだな、音弥くん」 「違うっ、勇星が変なとこ、触るから、ぁ……」 「……もう少し腹筋鍛えた方がいいぞ、音弥。腹に力入れてみろ」  勇星の指が離れ、今度は拳があてられた。腹を殴られるのかと思って、一瞬、体が強張ってしまう。 「ちょっと腹押すぞ。俺の手を腹筋で押し返すように、力入れろ」  言った通りにゆっくり、ゆっくりと、俺の腹筋にあてた拳へ勇星が体重をかけてくる。これに何の意味があるのかは分からないけれど、とにかく俺は言われたように腹筋に力を込めた。 「んっ、……ん」 運動なんて幼稚園での体操くらいしかしていないから、体がなまっているのは知っている。 「いい感じだ。まだ弱いけど、ちゃんと押し返してきてる」 「こ、これ意外と疲れるんだけど……」  何度かに分けて勇星の拳を押し返してから、俺は「ぷはあぁ」と全身の力を抜いた。腹の辺りが熱い。時間にしてたった五分にも満たないけれど、何だかちゃんとした腹筋トレーニングをした後みたいだ。 「な、何なんだよ、これ……。何がしたかったんだよ……」 「音弥くんの、腹筋具合をちょっとな」 「……腹筋フェチなのか?」 「まあ、そんなとこ」  そう言って、勇星が俺の上に体を倒してきた。 「合格」 「……嬉しくねえ」  勇星の手がベルトにかかる。 「………」 駄目だと分かっているし、俺に男の趣味はないのに。何故か抵抗しようという気にならない。まだ酔っ払っているからか、童貞ゆえの興味があるからか、それとも……  道介を笑わせたこの男に、何となく──人としての魅力を感じてしまったからか。
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