思いと気持ち

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 三日目の夜──旅行最終日のラストナイト。明日の昼頃、チェックアウトを済ませたら再び車で押川町へ帰る。  ベッドの上で寝返りを打ったその時、隣にいるはずの勇星がいないのに気付いて目が覚めた。見れば勇星はリビングの向こう、丁度部屋を出て行こうとしているらしい。 「……勇星。どっか行くの? ジュース?」  寝ぼけ眼で起き上がると、勇星が俺を振り返って言った。 「ちょっと出てくるわ。音弥くんはまだ寝てろ」  時刻は午前三時。夏とはいえどまだ外は真っ暗だ。こんな時間にどこへ行くというんだろう。 「海、行ってくる。すぐ戻る」 「ええ……何でまた?」  一気に目が覚めてしまい、俺は思わずベッドから身を起こした。こんな夜中に海へ行くなんて危険過ぎる。そもそも何のために。 「……俺も行く」 「いいよ、寝てろって。暗いから危ねえぞ」 「目、覚めちゃったよ。俺も最後に海行きたいし、すぐ明るくなるだろ」  部屋着のままホテルを出て、手を繋いで海へ向かう。ホテルのプライベートビーチじゃなくて、歩いて十五分の場所にある名前も分からない海岸だ。  夕方通った時は犬の散歩やジョギングをしている人がいたけれど、流石にこの時間は誰もいない。 「わ──」  頭上に広がる星空は、押川町で見られるそれとは比べ物にならないほど美しかった。  あの一粒一粒が、何億光年も先に見える星の輝き。数え切れないほどに瞬く星たちは、目前の海の中へと降り注いでいるように見えた。 「………」  思わず言葉を失った俺の横で、勇星が口笛を吹いている。  静かな波の音に重なる音色。  海面に浮かぶ三日月。  星も海も月も、まるで勇星の奏でる音に合わせて揺れているみたいだ。──俺が何を言おうと、何を思おうと、この自然美の前では無意味でちっぽけなものにしかならない。 「こういう光景を見ると、神の業を信じざるを得なくなる」  勇星の言葉に頷きながら、俺は小さく笑みを浮かべて言った。 「……天地創造だ」  はじめに神が天と地を創造した。創世記の第一章、第一節。どの聖書も、書き出しはこの一文から始まる。天地創造は全ての始まりなのだ。 「………」  見ると、勇星が海に向かい目を閉じていた。波の音を聞いているのかと思ったが、違う。その口元は小さく動いていた。──祈っているのだと気付き、胸の奥から熱いものがこみ上げてくる。
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