秋の遠足と勇星の楽譜

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『九月六日 また元気なみんなと会えてとても嬉しいです。素敵な夏休みを過ごせたみたいですね! 来週はどうぶつ公園へ遠足です。たくさんの動物とふれあえるのが今から楽しみ!』。 「おとやー。ほら、見て。てのひらにスタンプ!」 「あはは。手のひらが『けんたろう』だらけだ!」  すっきりと晴れた九月九日、月曜日。夏休みは終わったし暦の上では秋だけど、まだまだ夏の暑さは存分に残っている。 今日は電車で南山市まで遠足だ。  運動着にリュックを背負って、水筒を肩から下げて、水色の帽子をかぶって。子供達は興奮を抑えられない様子だけれど、そこは流石に年長組が、年下の子達としっかり手を繋いでくれている。 「ゆう先生、駅はどこに着いたら降りるの?」 「南山だ。着いたら知らせてくれるか?」 「みなみやまだね、分かった」  Tシャツに緩めの黒いチノパンに、探検隊みたいなサファリハット。勇星はドア付近で子供達に囲まれながら笑っていた。 「園長せんせー。座っておやつ、食べてもいいですか?」 「おやつはお昼ご飯の後の楽しみにとっておこう。それに、今日はソフトクリームも食べるんだぞ。その前にお腹がいっぱいになったら大変だ」 「ソフトクリーム! やった!」 「かいとは動物で何が好き?」 「うーん、サルかなぁ。デカいのも小さいのも可愛いだろ」 「かいと先生、おサルに似てるもんね!」 「ええ……」  それから南山の駅に着き、それぞれの組で整列して改札を出た。 南山どうぶつ公園は駅からはそこまで離れていない場所にあり、敷地も広く、ピクニックにはもってこいの場所だった。動物園のようにたくさんの生き物がいる訳ではないが、ヤギやウサギにリス、それから何と言っても馬に牛もいる。子供達が楽しみにしているのは馬に乗ること、それから牛のミルクで作られた極上のソフトクリームだ。 「見て、ウサギ!」  女の子達がまずウサギに目を奪われるのも毎年のことだった。柵で囲われた緑の芝の中、放し飼いにされているウサギ達が元気に跳ねている。 「かわいい!」 「おとや先生、一緒にウサギ抱っこしよう!」 「オッケー。でもまずは園長先生のお話をよく聞いて、それからまたここに来よう」  邪魔にならない場所に集まって、見谷牧師から動物を触る時の注意などを聞く。動物を怯えさせないためというのは勿論、自分達も怪我をしないようにするための注意点だ。こうやって遠足に来るのは楽しいけれど、その分、俺達も最善の注意を払って子供達を守らなければならない。 「それじゃあ、十二時のお昼まではクラス毎に分かれて園内を回ろう。トイレに行く時や喉が渇いた時は、先生に声をかけるんだよ」
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