秋の遠足と勇星の楽譜

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 海斗率いるうぐいす組は馬のところへ、勇星のこまどり組はリスやサルの飼育広場へ、俺と見谷牧師とつばめ組はウサギの所へ。それぞれグループに分かれて順繰りに動物の所を回る予定だ。 「園長先生、ウサギ触ってもいい?」 「ああ、いいよ。その代わり飼育員さんの言うことをよく聞くんだよ」 「やった! おとや先生、行こう!」 「おぉ!」  ウサギは白いのから黒いのまで、大小様々な種類がいた。背の低い木の椅子に皆で腰かけてウサギを膝に乗せてもらい、優しくその体を撫ぜる。さらさらで温かい手触りが気持ちよくて、思わず溜息が洩れた。 「かわいいね!」 「うん、かわいい」  それから野菜スティックを購入してエサやりをし、近場にいたヤギにも触った。始めはヤギの大きな体と鳴き声を怖がっていた女の子達も、俺や道介がヤギにエサをやって体を撫でるのを見て徐々に近付いて来てくれた。 「園長先生、ヤギ触らせてもらえた!」 「良かったね、ちゃんと優しく触れたかい」  子供達に抱き付かれて笑っている見谷牧師も楽しそうだ。  それから十二時になって芝生広場に集合し、皆で食前の祈りをしてから弁当を食べた。動物のキャラクターおにぎりを頬張る子も、ハンバーグに喜ぶ子も、苦手なグリーンピースを海斗の口にせっせと運ぶ子も──みんな、青空の下で楽しそうに笑顔を見せている。 「ゆう先生のお弁当さあ、おとやのと同じおかずばっかりだね」  テルキの指摘が聞こえた瞬間、心臓がビクリと跳ね上がった。 「ああ、音弥が作ってくれた弁当だからな」 「へえー、仲良しなんだね。ケッコンしたの?」 「ちょっと勇星っ、……テルキも何言ってんの!」 「テルキ君、男の人同士とか女の人同士はケッコンできないんだよ! 知らないの?」  隣にいたメグが驚いて声をあげると、テルキがきょとんとしながら勇星の顔を見て言った。 「そうなの? 僕んち、お父さんがいなくてお母さんが二人いるけど、ケッコンしてるのかと思ってた」 「えー、それって変なの!」  そうだ。テルキのお母さんは確か未婚でテルキを産んで、パートナーと一緒に三人暮らしをしているんだっけ。全ての事情を隠さずにさらけ出し、その上で幼稚園の行事にも積極的に参加してくれている。俺よりもよっぽど頼り甲斐のあるお母さんだ。 「変じゃないよ!」 「変だよ! だって女の人は男の人しか好きにならないし、男は女しか好きにならないんだもん」  こういった言い合いも子供同士なら当然起こることだが、ここでテルキの気持ちを傷付ける訳にはいかない。
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