秋の遠足と勇星の楽譜

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 俺がメグを止めようとしたその時、 「そうとは限らねえんだよなぁ、メグちゃん」  勇星が後ろからメグを抱き上げ、遠くに見えるウサギの広場を指して言った。 「さっきメグも抱いてたあの白いウサギは、男同士でケッコンしてるんだぞ」 「え?」 「母親が育てられなかった子ウサギを、男同士のウサギが一緒に面倒見てるんだって。どこに行くにも三匹一緒で、立派な家族なんだってさ。珍しいことだけど、飼育員のおじさんはそのウサギを誇りに思ってるそうだ」 「そうなの……?」 「人間も同じ。男同士で好きになることもあるし、女同士で結婚することもある。周りの家と違うかもしれねえけど、違うことは変なことじゃない。俺が五年間住んでたイタリアでは、男同士・女同士の結婚もできる国だったしな」 「へえー! 知らなかった」  メグを下ろした勇星が、その小さな背中をそっと押してテルキに向かい合せる。 「テルキ君、ごめんね」 「ううん、いいよ!」  この仲直りの瞬間が大好きだ。勇星が二人の頭を撫で、牧師もにこやかにそれを見ている。 「じゃあ、ゆう先生もおとや先生が好きってことなの?」 「ああ好きだぞ。音弥だけでなく、お前達のこともな」 「やったー!」  上手くはぐらかしてくれたが、内心ヒヤヒヤしてしまった。  そしてヒヤヒヤしたものの、何だか凄く嬉しかった。  食後のお楽しみだったソフトクリームは本当に甘くて美味しくて、子供達も俺も大満足だった。スーパーで売っているバニラアイスでは絶対に再現できない味だ。新鮮なミルクというだけで、どうしてここまで美味しくなるんだろう。 「ここまで美味いと、普通に牛乳としても飲んでみてえな」 「う、うん……」 ただ勇星がそれを舐めているのを見ると、先月の旅行での出来事を思い出して顔が赤くなってしまう。 「音弥くん、口元に白いの付いてるぞ」 「変な言い方するなよ……」  まだ恋人同士という実感はあんまりないけれど、俺は勇星という男が好きだ。あれ以来、週に三回は互いの体に触れ合っている。それでも勇星は約束していた通り、それ以上のボーダーを超えようとはしてこなかった。  俺としては、いつでも心の準備はできているつもりだった。だけどいざその時になるとやっぱり怖くなって、怖気づいてしまうのだ。勇星を信頼していない訳ではなく、単純に未知のものへの恐怖が働いてしまう。勇星もそれを分かってくれているからこそ、文句も言わず催促もせずゆっくり待ってくれている。 「また今夜アイスで遊ぶか」 「何言ってんだ、馬鹿っ」  セクハラは相変わらずだけれど。
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