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それから芝生で鬼ごっこをして、アスレチック広場で遊んで、気付けばあっという間に帰る時間となってしまった。疲れ知らずの子供達も流石にエネルギーを使い果たしたか、帰りの電車では殆どの子が眠ってしまっていた。
「俺も眠いんだけど」
「ゆう先生は寝ちゃダメっすよ」
そう言う海斗も眠そうだし、俺も眠かった。今日一日、本当に充実していた証拠だ。
「親父が一番眠そうじゃねえかよ」
つり革に掴まってうとうとしていた見谷牧師がハッとして、照れ臭そうに笑う。
「すまんすまん。もう大丈夫だ」
「無理すんなよ爺さん、席空いたら座って寝ろ」
「ありがとう勇星。でも大丈夫、お陰で目が覚めたよ」
「……ゆう先生って、優しいんだかぶっきらぼうだか分かんない人だよなぁ」
押川町に到着し幼稚園へ戻り、簡単に帰りの会をして、子供達は寝ぼけ眼のままそれぞれ迎えにきた親と帰って行った。
「いやいや、皆も暑い中よく頑張ってくれた。お疲れ様!」
「あー疲れた。でも楽しかった!」
帰る支度をして戸締りを確認し、四人で園の外へ出る。午後五時、空は暗い。まだまだ暑いと思っていたけれど、確実に陽は短くなっていた。
門の前で見谷牧師と別れ、一つ目の角で海斗と別れる。
俺と勇星はアパートまでの道のりを一緒に歩きながら、今日の出来事を振り返っていた。
「テルキのフォローしてくれてありがとう、勇星。でも実はちょっとヒヤヒヤしてたよ」
「俺としては別にバレても構わねえけどな。親父も偏見は持ってねえし、チビ達の親から苦情がきても堂々と反論できる」
「……牧師って、勇星がゲイだってこと知ってるの?」
目を丸くさせて問えば、あっさりと勇星がそれに頷いた。
「ああ、ガキの頃からな。一時期それに悩んでた時もあったけど、親父が『気にするな』って言うから気にしなくなった。同性だろうと異性だろうと、人を愛する心の素晴らしさってのは変わらないんだってよ」
「そうなんだ……」
視線を足元に移し、少しだけホッとする。
どこか後ろめたさを感じていた勇星とのあれこれを、何だか大きな存在に許されたような思いだった。心のつかえが取れたというか、俺という人間を認めてもらえたというか。
俺達は間違っていない。だから、隠れたり逃げたり恥ずかしがることもない。
「……お?」
こうして勇星の手を握っても、それはきっと間違いじゃない。人を愛する心というものを、俺にとって一番大切な温かい気持ちを、生まれて初めて好きになった人に伝えたいだけだ。
「………」
触れたい気持ちは、一つになりたい気持ちと似ているのかもしれない。
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