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四十分の昼休み──
「いてっ!」
「動くなよ音弥くん、消毒できねえ」
俺はいま小学校の保健室を借りて、勇星に膝を消毒してもらっている。擦り傷というのは本当に厄介だ。大したことはないくせに痛みが大きい。
「チビより大人が怪我してどうする」
「ご、ごめん。長いズボン穿いてくれば良かった」
椅子に座って左脚のふくらはぎを勇星の膝に乗せ、痛みに眉を顰める俺。……情けない。
「……勇星、一位おめでとう」
「楽勝だったけどな」
「ふうん。リカママとめちゃくちゃいい勝負だったみたいだけど」
からかうと、勇星の顔が途端にムッとしたものになった。
「オラ、もっと脚」
「ちょちょ、ちょっと!」
勇星が俺の脚を持ち上げ、俺の左膝を自分の膝の上へと乗せる。それから絆創膏を貼られて終わり──なんだけど。
「……勇星?」
ハーフパンツの隙間から入ってくる勇星の手に、俺は嫌な予感を抱いた。
「音弥の内股、すげえ柔らけえ」
「いや、ちょっと待って。今はこんなことしてる場合じゃ……」
「逆に今しかできねえだろ」
確かに今はみんな昼食に夢中だけど、だからって子供達がいる中でこんなことをするなんて。
「んぐ、ぅ……やだ、ダメだってば」
パンツの裾から入ってきた勇星の手が俺の内股と脚の付け根を撫で、それから強引に股間の方へとねじこまれる。
「さわ、んなっ……」
「音弥くんがさ。あまりにもカッコ良かったから、ちょっとムカついたっていうか」
「え……? な、何の話……」
勇星の目は悪戯っぽく光っている。
「愛花を抱っこしてる時の音弥くん、王子様みたいだった」
「……もしかして愛花に……子供に嫉妬したっていうのか……?」
「誰にとかじゃなくて、王子様みてえなカッコいい顔を、俺以外に向けられたってことにムカついてんの」
そう言う割には何だか嬉しそうで、勇星の考えていることがよく分からない。
「惚れた男を女扱いすんのは好きじゃねえから、……」
勇星がポケットから何かを取り出した──青い、大きな、花だ。
「わ、……」
「音弥くんは、俺だけの王子様」
左頬にかかる髪の束をクリップでまとめ、耳の上に花を付けられた。それから、勇星の上に立てていた膝に優しくキスをされる。
「ゆ、勇星……」
こんな気障なことをされて恥ずかしくない訳がない。今にも顔が爆発しそうだった。
頬に触れたのは、俺の大好きな指先。
唇に触れるのは、温かくて優しい唇。
「………」
カーテンを引いておいて良かったな、なんて思いながら。
俺は何度も勇星と唇を重ね、最後には抱き合って深く口付け合った。
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