始まりの人、始まりの鐘

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 自分に銃を向けている、目の前の、背が高く、羽織っているグレィのパーカーのフードを深く被っているので顔が見えず、細身のジーパンに白いスニーカーを履いていて、パーカーの上にさらにベージュのトレンチコートまで羽織っているため体の線がはっきりしない、男とも女ともつかないその人間のことを、犬井は決して知らなかった。  ーー突然銃を向けて撃ってくる人のことなんて、知らない。知るわけがない。  幸い一発目は肩を擦るだけだったが、腰が抜けて立てない犬井に銃口を向けながら、パーカーは不思議そうに、あるいは肩が凝っていたのか、首を傾げた。 「次は死ぬよ? 早くお前のペリを見せろよ。コアでもいい。まあ、何だっていい。想像するのが楽しいんだ。こいつのコアは何なんだろうって。お前らもまるっきり馬鹿じゃないしペリで撹乱させてくるけど、それを上回って見抜くのがね、好きなんだよ」  ペリとかコアとか、何を言っているのか。犬井は笑いそうになるのを堪えた。パーカーの声は聞いていてなぜか強烈に不快だ。二日酔いのように掠れていて、やはり男か女か特定できない。本当に二日酔いなのかも。犬井はそう思ってまた笑いを堪えた。  ここは人気のない神社で、しかも人通りが微かにある通りから階段を降りた先にあり、人目につきにくい。  誰か来てくれないか。そう思いながらも、夜中のオフィス街では絶望的な願いに感じた。
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