熱中症にはご注意を

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熱中症にはご注意を

蝉共が喚いている。 コンクリート打ちの駐車場にぱんぱんに膨らませたビニールプールを置いて。 井戸水を全開に蛇口ひねって貯めていけば。 「うわぁぁい!」 「ひんやりーっ!」 「ヒャッハァァァッ!!」 小学一年生3人が一斉に歓声を上げて飛び込む。 「お兄ちゃんありがとぉぉぉっ!!」 「冷たぁぁあい!」 「ごくごく……」 「あっ! 兄ちゃん、リカが水飲んでるっ!」 姦しい女児達に囲まれて、早くも疲労困憊だ。 僕、山下 六雄(やました ろくお)。高校生。 言っとくが僕の上に5人の男兄弟はいない。 代々女系で『碌に産まれない男が』生まれた、という感動を母が名前に込めたのだと。 しかし、『碌』を何故『六』としたのは謎だ。本人に聞いても笑ってはぐらかされる。 僕には妹が3人いる。なんと3つ子だ。 カエ、エリ、リカという名前で、小学一年生。 母親の再婚後に産まれた、いわゆる異父兄弟ってやつ。 ちなみに僕の本物父親はずっと前に海で死んだ。 「兄ちゃん冷たいよぉぉぉ!」 「一緒にはいろーよ!」 「ごくごく……」 うん、妹達は楽しそうだ。 両親共に出掛けてる。 さらに暑すぎて学校のプール解放すら解放されくなって、不貞腐れたり暴れたりする3つ子達を宥め透かしてようやくこの状態だ。 彼女たちには少し狭めなプールだが、まぁ楽しそうだから良しとしよう。 三女のリカは相変わらず水飲んでるけど。 「おい、リカ。水飲むな、腹壊すぞ」 「ごくごく……」 まぁいい。放っておこう。 辛うじて出来た日陰に腰を下ろし、僕は水しぶきを上げてはしゃぎ回る妹達を何の気なしに眺めていた。 「ねーねー! お兄ちゃんも入ろーよー!」 「冷たいよ? ひんやりするよぉ?」 「……ごくごく」 少し落ち着いて来たのか、今度はこっちに水をかけてきやがる。 「っと、やめろよ……僕は良いってば」 「いーじゃん! お兄ちゃん、すっごく暑そうだよ?」 「汗、凄いしぃ」 「ごくごく……」 確かに暑い。暑すぎるからか、少し目眩みたいなものもする。 だからこうして座っているんだけど……。 「……お兄ちゃん? お兄ちゃんっ!!」 「……えぇ、ちょっと? エッ!?」 「………」 あれ、おかしい。なんだか、目の前がチカチカする。 ひたすら身体が熱い……眩しいからか、妹達の姿が声が遠く……。
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