欲張り

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欲張り

真夏の昼下がり、少女はおしゃれをして隣に住む青年の家を訪ねた。 青年とは幼なじみで、少女が赤子の頃からよく世話を焼いてもらっていた。 普段なら此処までめかし込むこともなく、青年がいようがいまいが関係無く家へ遊びに行っていた少女。 しかしこの日は違っていた。 この日の気温は例年を上回っており、涼しい家の中から一歩でも出ようものなら、身体中のあちらこちらから汗が吹き出てしまう程の暑さ。 それでも少女がめかし込み、青年がいることを確かめ、暑い中向かったのはとある約束を青年が覚えているか確認するためだった。 「こんな暑い中、よく来たな」 「…隣だから、大丈夫だと思って…」 「それでも汗かいただろ?」 「これくらい、平気…。それに、ここも涼しいから…」 「しっかし、そんなにめかし込んで、これからどこか行くのか?」 「別に…」 青年は少女に氷を入れたオレンジジュースを差し出し、自分は氷の入ったコーヒーを飲んでいた。 正面に座り、にこにこと楽しそうに笑いながら話す青年の姿を見つめていた少女は、自身の顔が熱を持ち始めていることに気付き、思わずうつむいた。 そんな少女の態度に青年は首をかしげ、「どうした?」と訊ねた。 「………あの、ね…、あの…その…」 「ん?」 「…約束…」 「約束…?」 「…っ、私が幼稚園の頃、結婚してって…、覚えてる?」 「………」 「今日…私、誕生日なの…16歳の…」 うつむいたまま話していた少女だったが、青年からの反応は無く、唇を噛みしめていた。 しかし、意を決するとゆっくりと顔を上げ、青年へ目を向けた。 少女の目に飛び込んで来たのは、口元を手で覆い、うつ向いている青年の姿だった。 返事も聞けず、表情も読めず、少女はどうしていいか分からなくなり再びうつ向いた。 しばらくの静寂。 瞬間、青年の方から大きなため息が聞こえ、少女は手を握りしめた。 スッ 「!」 バッ 「あ、あの…」 「…待ってろ」 突然立ち上がった青年に少女は慌てて声をかけたが、青年は一言返してその場から離れた。 しかし、すぐに戻ってくると少女の目の前にある物を置き、「おめでとう」と呟いたのだった。 「これ…」 「今日が誕生日なの、覚えてたからな」 少女の目の前に差し出されたのは、綺麗に飾り付けられたケーキだった。 「え…」 「まさか、あの時の約束を覚えてるとは思わなかったけどな…」 「…忘れるわけないよ…」 「俺で、いいのか…?」 「………じゃなきゃ、やだ…」 「そうか…。なら、よろしくお願いします」 言いながら少女の頭を撫でた青年は、先程よりも嬉しそうに笑った。 「さ、早くこれ食べなきゃな」 「え、あ、ケーキ…」 「実はこのケーキ、アイスで出来てるんだ」 「うそっ!?」 驚く少女の姿に笑みを深めた青年は、一緒に持ってきていたナイフで切り分け始めた。 パクッ 「ん~っ、冷たくて甘くておいしい~っっ!!」 「ははっ、そんなにか?」 「…ありがとう、覚えててくれて…」 「ん~、まあ、俺も満更でも無かったからな…」 「え、それって…」 「ほら、早く食べないと溶けるぞ?部屋ん中が涼しくても、冷凍庫程じゃないからな」 ごまかす青年の態度に少女は少しムッとしたが、あることを思い付くと、ニッと笑って青年に近付いた。 そして、青年がケーキを口に放り込むと同時に唇を奪った。 スッ チュッ 「!!?な、何して…」 「だってこれ、私に買ってくれたんでしょ?」 「だからってなぁ…」 「…全部、私のだもん…」 「え?」 「このアイスケーキも、あなたも…、ね?」 「っ~…、分かったよ。ほら、早く食うぞ!!」 終
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