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一生に一度は願う女性達の夢。
今日も何処かの高層ホテルでは幸せなムードに包まれている。
かく言う侑子は、そのムードの中に居た。円形のテーブル席で複数の人と食事をしている。
煌びやかな内装に、前菜から順に置かれてゆく料理の数々。来客者は普段よりもおめかしをして、ドレスやスーツを着こなす。
今日というおめでたい日を迎える為にーーー
時が経ち、司会者の女性がマイクを持って進行をし始めた。
「では、新婦と新郎がご登場します。盛大な拍手と共にお出迎えして下さい」
待ってました! という柔らかい雰囲気で部屋の明かりが消える。向かい扉にスポットライトが当たる。
皆は椅子に座ったまま、登場する予定の扉に身体を向けた。
新婦と新郎が考えたであろうウェディングソングが流れ出し、扉がバタッと開く。
今回の主役達が現れた。スポットライトに照らされ、2人で軽くお辞儀をする。
周りから盛大な拍手が送られていて当の本人達は嬉しそうだ。
この幸せな空間で喜ばしいと思う人が大半だろう。侑子を除いては。
そう簡単に2人を祝ってあげられるような心を持ち合わせていない。
侑子の手元からは拍手の音が聞こえてこない。2人が侑子の前を通り過ぎて背中を見せるまで見つめていた。
2人共メインテーブルに着席する。
どうやら、侑子の存在には気付いていないらしい。一応、マナーとして失礼のないような服装とお化粧をしている。
本当は侑子が新郎と隣に座る筈だった。
あの新婦の隣に座る新郎は、侑子の『彼氏』だった。
それも学生時代に付き合っていた、元・彼氏だ。
侑子は胸元に手を置き、そのまま服を掴む。複雑な気持ちで2人を見つめる。
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