第1章 届く想い

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■  ■  ■ 「そんな事になってたんだ」  私は森木君の話を聞いて驚愕した。 ドッキリも驚いた、だけど一番驚いたのは……。 「何で、愛理のメアド知ってるの?」 私は思いっきりクラス中に響く様に大声で叫んだ。 「えっ?理沙が余りにも恋に臆病だからフォローしようかなって……」 『うるさいよ』と周りの女子から私にクレームが来たので素直に謝った。  そんな事よりいつからメアドを知っていたんだろう。 愛理はまさか狙っているのかな?ずっと森木君と会話とかしてたのかな。  私は愛理の話術に嫉妬していた。 私は友達(愛理だけ)以外話すのが苦手、愛理は誰とでも話せるいわば話上手だ。 愛理は私が話すの苦手だから仲人さん的な役割に徹してくれたのに、私ったら親友に嫉妬してる。  確かに森木君と話せるなんて羨ましいけど、それは私と森木君を引き合わせる為なんだから嫉妬なんてしたらいけない。 私は嫉妬魂(こみあげてくるもの)を押さえ、私は森木君を見た。 じゃぁ、つまり私は森木君と両想いだったって事?  こんな自分に都合が良さ過ぎるので、ドッキリだった事を未だに信じられない自分がいる。 だって、リモートの影響で記憶を植え付けているって考えてもおかしくないよね。 「えっ、両想いなんだよね?」 「うん、そうだよ」 「あれの影響でそうなった訳じゃないんだよね」 「疑り深いなぁー。だったら、もっかい恋愛リモート使って俺が意に反した事をすればいいだろ?」 「そうか。そうだよね」 そうだ、慌てちゃ駄目。 もっかい使えばこれがドッキリか本物か分かる。 「もう一回、使えばいいんだもんね」 「まぁ、使えば分かるよ。使えばね」 疑り深い私は森木君に本当かどうか聞いていた。  その姿を見ていた愛理は悲しそうな目を私に向けていた。 何で、そんなに落ち込むの? 私の信条は『まず、疑う事から始める』だからしょうがない。  森木君とメアドを交換した後、私は授業が終わって森木君と帰っていた。 少し違和感が残っていたがそんな事は一種のマヤカシだろう。 そんな事より、『精一杯に今の幸せを掴んで、もう二度と離さない』と思った。 あのドッキリの様に怖気づいて逃げ出して、森木君との幸せを逃がしたくなかった。 もう、あの時の優柔不断な自分に蹴りをつけたい。  森木君が私を見て、ニコッと笑った。 「ちょっと、遠回りしていい?」 「うん、いいよ」 とっさに反応して言葉が出た。 森木君の前だと緊張してるのかな?帰ったら、お姉ちゃん心配してるかも。 私は森木君と一緒にテクテクと歩いていく。  交差点を右折してからずっと真っ直ぐに長い距離を歩いていた。 体が重い、痛い。筋肉痛かな? 家に帰っても運動とかロクにしてないからな。  「着いたよ」  前を見ると綺麗な青々とした大海原が広がっていた。 それはさっきまでの筋肉痛を忘れさせるくらいとても綺麗だった。 「綺麗な海、こんなとこ見た事ない。でも、何でここなの?」 「それは最初にここで出会ったから」 唐突な疑問はここでプツリと切れた。  そう言えば、最初に森木君に恋をしたのはこの場所だった。 海が近くに在って、幼稚園の時に私はお父さんの葬儀に行ってた時だ。 でも、思い出せない。 何で、森木君を好きになったのか。 何で、森木君がそこにいたのか。出会った後、私が何をしたのか。  全然、思い出せない。でも、懐かしい感じがする。 過去の事より今の事、昔の事に縛られてたって意味無い。 「私、記憶が断片的で少ししか思い出せない。ごめん」 「まぁ、小さい頃だからしょうがないよ。でも、この景色だけは今でもいいから覚えてて貰いたくてここに来たんだ」 「うん、今を大切にする」 「そうだね」 「ねぇ、森木君?海基さんの事なんだけどさ……」 「んっ、何?」 「私あの人の事、誤解してて悪女とか思ってたんだよね。森木君から『理沙が謝ってたよ』って言って貰えないかな?」 「うん、別にいいけど。本人の口から言った方がいいと思うんだけど」 「まぁ、無理にとは言ってないけど。出来たら、ね?」 黄昏の夕方時、私は森木君と一緒に夕焼けが沈むのを眺めていた。  ■ ■ ■  私は森木君と同じクラスの海基伊美(うみきいみ)に今日、『悪女』の件を謝りに行く。 彼女は森木君からの依頼をただこなしてただけなのに、私はドッキリと気づかずに悪女だと思っていた。 彼女の演技は迫真であると共に演劇部の副部長までやっている。 まぁ、あの演技からしてその位の地位になってもおかしくは無いと今更ながら思った訳なのだが。 だから、私が騙されてもおかしくは無い演技だった。 でも、あれがもし演技ではなく本当の事だったら私は今頃どうなってたんだろう。  恋を諦めてほかの人に移っていたか、恋を諦められずにストーカーがエスカレートして森木君に近づかせない殺人鬼とかになってたのかな。 そう考えるとぞぞっとした。  殺人鬼かぁ、そうなると警察沙汰だなぁ。 まぁ、ありえない話だ。  私が昼休みに海基のクラスに行くと、なにやら海基が私に手でコイコイと合図をしていた。 入っていいのかなぁ?他のクラスだけど今はしょうがないよね。 『謝る為』、それを大義名分にして海基のクラスへ入った。 「あっ、先生来た!」 えっ、嘘。 後ろを振り返っても先生はいない、後ろを振り返る生徒は私以外いない。  私を見ていた海基はケタケタ笑っていた。 「やっぱり、思った通り。騙されやすい体質なんだね。あなたって」 「騙されやすい体質?そりゃ、普通に『先生来た』って言われたら振り向くでしょ」 「皆、これやってたら引っかからなくなってつまんないって思ってた所にあなたが来たって事であなたはさっき私の手の中で転がされていたのよ。ハハハ」 「なにそれ。せっかく謝りに来たのになんか馬鹿にされてる気分」 「そうそう、これなんだけど」 「なにこれ?」 海基は五センチミリメートルの小さな箱を私に見せていた。  海基が私にあげるというので私は貰った。 「その中に指輪が入ってるの。森木にでもあげたら?」 「えっ、指輪?」 私が箱を開けるとグロテスクな顔の人形が飛び出した。 「きゃあぁっぁぁあ」 私が驚く声を上げると海基がまた笑い、また私を馬鹿にしたように言う。 「やっぱり、騙されやすい体質ね。特に『森木』という固有名詞を出すとすぐに引っかかる。やっぱり面白い」 まるで、人の名前を道具の様に扱ってるように見えた。 やっぱり、私って騙されやすい体質なのかなぁ? 「ただ、私は謝りに来たっていうのになんでこんな目に……」 「だって、気に入ったんですもの。面白いから」 お気に入り?いやっ、これはただ単にカラかってるだけなんだ。 「悪女って思ってごめんなさい。だだそれだけ言う為に来たから!じゃぁね」 私はそう言って教室を去った。  彼女、ほんっと掴めない子だった。 何を考えてるのか分からない。優しくすると思ったら騙すし、ホント分からない。 そろそろチャイムが鳴るから自分のクラスに戻ろう。  私はさっきのでイラッとしながら自分のクラスに戻った。 私はこの日海基への苛立ちが募り、森木君に心配させてしまった。  次の日の土曜日の朝、私は自分のパソコンの前にいた。 森木君が起こす行動を遮る方法、もしリモートが本物だった時は使わなければいいんだ。 今は本物か確認する実験、危険なことは避けたいでも一般的もやだしなぁ。 名前は固定なので、時間、場所、行動を決めなくてはならない。 絶対にありえない事。 そうだ、まずは行動から決めよう。 『異空間を召喚する』 よしっ、これでいい。絶対無理。 場所はどこがいいかなぁ?そうだ。 実際にここに来る事を予知すればいいんだから自分の部屋でいいじゃん。 私の部屋で異空間を呼び出す無茶苦茶すぎだと思った。  まぁ、無理か。 あとは時間だけ……。  なぜか優越感に浸っていた。 ニヤニヤが止まらない、何が面白いのかも分からないが笑っていた。 時間、もう今日の十二時でいいや。 今は十時、森木君が今から私の部屋にやって来て異空間を呼び出すなんてそんなまさか。 時間を埋めた後、リモコンの決定ボタンを押した。  二時間待ったが森木君は来なかった。 十二時過ぎて一時になり、効果がないつまりドッキリだった事に気づいた。  はぁー、これでスッキリ。 やっぱり、ドッキリだったんだね。  私は森木君にメールをして『やっぱり効果なし』と書いて送信した後、サヴァランを食べに下へ行った。
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